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だって、猫だから。


お前の言葉は吐瀉物に混ざった毛玉みたいだったから目の前で吐いてみせた。
喉の奥に絡まる言葉を拒否するように洗い流すと喉がキリキリとした。
それから彼と連絡をとることはなくなった。
当然のことだ。


この石には、このくらいの力を加えると、おおよそこれだけ飛ぶだろうという感覚で生きている。
最近は慎重になりすぎて自発的な会話は少なくなった。つまるところ投げる石も見当たらない。
頭の中で考えれば考えるほどにつまらなくなる言葉が逃げ道を失って口から吐き出されていく。
ただ、ふっと、鳴いてみたい。


人を好きになる時だけ人間になれる。
猫みたいに生きたいと望んでいたはずなのに、誰かを好きになると金づるでもいいからと尽くしたくなる。愛おしくてたまらなくなる。
いわゆる、「死ぬほどに好き」ってやつ。
これは、きっと、小さな暴力の形だと思う。
爪で引っ掻くくらいの。
記憶にこびり付いた痛みもカサブタになって晴れて愛おしさだけが残ればいいのに。
猫の僕は死んで、猫の誰かを好きになる。
好きになった誰かはもう既に人間になってたりもするけど。

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