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空っぽな看板 2023/01/22の日記

 ある建物の片隅に人の背丈ほどの看板が立っていた。その看板には何も描かれていなかった。何が描かれていたかも推測できないほどにまっさらになっていた。
 私はそいつのことを見つけたとき、ふいに変な気持ちがして、その看板の写真を撮った。その後私は看板を見つめながら、こいつは元々なんて描かれていたんだろうとかどうして誰も処分しないんだろうとか考えていたが、次第に人がやってくるのを感じて、真っ白な看板を見つめるやつと思われるのはごめんだと思いその場所を足早に立ち去った。


 変なやつにまじまじ見られた。なんだアイツ。俺はこうなってからもうかなり経つが、こんなに読まれたのは初めてだ。
俺がまだ読めた頃だってそんなに見つめられてなかったぞ。だって、───俺すらもはやなんと描かれていたかも覚えてないが───元々たいしたことなんて描かれてないのだ。せいぜいここの通行人に何かしらの注意をする程度のものだろう。俺が読めてた頃よりも読めなくなってからのほうが誰かを引きつけるなんて皮肉なこった。
 あーあ、俺ってなんなんだろうな。看板なのに空っぽだなんて。どっかで「生まれたときは白紙のようなもので生きていくことで書き込まれていく」なんて聞いたが、本当にそうか?俺は生きていけばいくほど真っ白な看板になっちまったよ。そんな俺は最高にパンク……いやロックか?どっちが正しい言葉の使い方だったっけ。

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