【職人探訪vol.6】漆器に化粧箱あり。寸分の狂いない箱を手作業でつくり続ける・奥村省造さん
こんにちは。漆琳堂8代目当主、内田徹です。
越前漆器を支える職人たちを訪ねる「職人探訪」。
第6回目は、鯖江市で紙器(化粧箱)を製造する奥村紙器製作所の奥村省造さんをご紹介します。
日常生活のさまざまな場面で見かける箱。お菓子などの食べ物を入れたり、靴や服飾品を入れたりなど、収納や贈答のシーンには必要不可欠なものです。
私たちがつくる漆器にも化粧箱は欠かせません。贈り物は化粧箱で第一印象が左右されてしまうこともあるため、漆器だけでなく箱も私たちの商品にとって大事な要素なのです。
漆琳堂では、「RIN&CO.」をはじめ、ほとんどの化粧箱を奥村さんにつくっていただいています。
寸分の狂いもない箱と蓋の納まり、歪みがなくいくつも重ねられる安定性。これを昔ながらの機械を使い、奥様と2人でほぼ手作業でつくっているから驚きです。
▲漆琳堂の新ブランド「RIN&CO.」
いつもは配達に来てくださることが多く、私が奥村さんの仕事場に伺うのは滅多にないので、今回楽しみにしていました。たくさんの箱が積み重ねられた仕事場には、レトロな機械を駆使しながら作業する奥村さんの姿がありました。
▲奥村さん
伝統工芸と箱の密接な関係
ーー奥村紙器製作所ができてどれくらいになるんですか?
はっきりとした年はわからないけど、父親が戦時中に創業したと聞いてます。私も高校に通いながら家の仕事を手伝わされたねぇ。自転車でよく配達に行ったもんです。
ーーでは2代目なんですね。この辺りに箱屋さんは何軒くらいあったんですか?
昔は街なかにも箱屋が4、5軒あったかなぁ。鯖江は漆器の一大産地ですが、それを入れるための箱も必要なので。越前打刃物の箱をつくってくれと言われることもあったけど、うちは取引先のほとんどが漆器の会社やね。
ーー漆器や刃物を裸のまま贈ることはないですからね。伝統工芸と箱は密接に結びついてるんだなと思います。僕もそうですが、長年この仕事をされていると時代や景気の変化を感じますよね。
そうやね。親父が亡くなって24歳の時にうちを継いだけど、ちょうどその頃がオイルショックだったので、家業を継ぐ少し前が一番景気が良かったように思いますね。退職記念品の箱をつくってくれと言われることもあったなぁ。退職記念品なんて、最近は聞かないでしょ。
ーー昔はそういうのもありましたよね。
そこからバブルがあって、リーマンショックがあって、今のコロナ。昨年の今頃はほとんど仕事がないくらい影響をもろに受けました。少しずつ元に戻ってはきているけど、今は(奥さんと)2人でやってるし、配達も自分たちでするとなると、注文を受けられる量は限られてくるんです。
機械任せにしない、手作業の良さ
ーーあらためて仕事場を見せていただくと、どの機械もかなり年季が入っていますね。
うちにある機械はだいたい70〜80年くらい前の機械がほとんどですね。先代からずっと使ってるものなんですよ。
ーー足踏み式の機械もあるんですね。さっきから紙を機械に通していますが、これは何をするものなんですか?
これは箱を折り曲げるための筋をつける機械なんですよ。大手の会社は電動の機械が主流ですが、これが慣れてるから使いやすいし、電気を使わないからめったに壊れない。うちにも電動の機械はありますが、ちゃんと目で見て確認しながら作業できるのがいいんですよね。
▲機械に紙を通すと、ローラー状の刃によって筋がつけられる
▲リズミカルにペダルを踏んでいく奥村さん
▲きれいに筋が入ったボール紙
ーー奥にあるのはもしかして裁断機ですか? 机かと思いました。
そうそう、これも現役だね。
▲昔は研ぎ師が箱屋を回って機械の刃を研いでいたそう
ーーということは、この機械も?
もちろん。これは紙を型抜き加工する手動の機械なんです。これも電動だと逆に不安で。切り込みが足りなかったりずれたりすると箱自体の納まりが悪くなり、よれてしまうので、こうやって足で踏みながら確認していきます。
▲まるでオブジェのような型抜き機
大量生産の場合は機械が便利だけど、うちのように少ロットの注文が多い場合は、手作業の方がスムーズだし、逆にコストも抑えてつくれるんですよ。
ーーなるほど。基本的なことですが箱はどうやってつくるんですか?
断裁した紙に筋をつけて角を切り落とし、組み立てて角をとめるのシンプルな折箱のつくり方です。角はホッチキスのように針金でとめることもあるけど、特に大きなお盆や高額な重箱は傷がついたらいけないので、テープを使うことが多いですね。
▲角を切り落とすのも慎重に
▲箱の四隅をテープで熱圧着させていく
▲出来上がった箱の一部。積み重ねているだけで芸術作品のよう
ーーつくり方を聞くと簡単なように思いますけど、僕たちがつくったらこうはきれいにできないですもんね。
まぁ、かれこれ45年ほどこの仕事をしてますから(笑)。きれいに早くできるようになりましたね。
現物を見ると寸法がわかる
ーー奥村さんに箱を頼む時は、寸法を伝えるのではなく商品を直接見てもらうことが多いですよね。
そうやね。そっちの方がわかるね。
ーー商品を見ることで何がわかるんですか?
入れる商品と箱のゆとりですね。この商品ならこれくらいの寸法で、紙の厚さはこれくらいかなと。長いことやってるとだいたいわかるもんなんですよ。
ーーそれはやっぱり長年の経験からなんでしょうね。
箱を開けた時に商品がどう納っているかイメージするんです。スカスカでもいけないし、箱に当たるくらいぴっちりしすぎても取り出しにくいですから。
ーー僕たちメーカーのことだけでなく、手にとるお客さんのことまで考えてつくってもらっていると、すごく嬉しいですね。
箱は物が入ってはじめてその役割を果たすもの。これからも入れる物の良さを引き出すような箱をつくっていきたいですね。
(了)
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奥村さんの箱は美しく精密なだけではない、あたたかさを感じます。箱に何を入れるのか、手に取った人は開けた時に何を感じるのか。一つの箱に思いを巡らせ、心を込めてつくる奥村さんの姿勢が箱そのものに表れているのだなと、今回お話をさせていただくなかで感じました。
みなさんも、漆器をはじめ伝統工芸品にふれる機会があれば、ぜひ箱にも注目してみてください。奥村さん、ありがとうございました。
奥村さんの箱はRIN&CO. shop の商品に使用されています。
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