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むすめがかえてきますように

母の通ったグループホームで
ある年の七夕の日に
母が震えるような字で
書いた短冊に
「むすめがかえて(帰って?)きますように」
と書かれていた

母は、一度目の結婚で
生まれて1年も経たない我が子をおいて
家を出されて

2度目の結婚で生まれた私は
幼少時に交通事故で
生死の間をさまようような重傷を負い

奇跡的に助かった娘が
成人して一人暮らしをしたいからと
家を出ていった時には
母が泣いていたことを
ずっと後になって
叔母から聞かされていたので

母が短冊に書いたのは
自分の大事な子供が
自分のもとから
いなくなってしまった
そんな寂しさと辛さを思い出して
書いた短冊だろうと思ったが

あちこちの世界に
意識がさまよっていた
認知症の母は

もしかすると
私の知らない
別の世界のむすめの帰りを
待っていたのかもしれない

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