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プロの犯行

 有難いことに子どもを預かっていただける機会があったので、ものすごく久しぶりに妻とふたりでフレンチを食べに出かけた。

 ご夫婦ふたりで切り盛りしているような、十数席しかない小ぢんまりとしたフランス料理店だった。
 店内に一歩足を踏み入れたときから、換気対策をしていてもなお漂う慣れ親しんだ匂いにピンときた。
 スモークだ。
 シェフお任せのコースだからお店に行くまで知らなかったが、1品目のオードブルがいきなり燻製だった。
 カンパチの刺身の燻製。
 お店に許可を得ているわけでなし、写真は上げないが、見た目はほとんど普通のカンパチの刺し身と変わりなかった。おそらく冷燻か瞬間燻製なのだろう、この暑いのにどうやって60℃以下を保ったのか。
 カウンターキッチン式のお店だったので、提供の直前に柳刃包丁で切り分けているところが見えた。
 見た目は普通の刺し身だが、食べてみるとしっかり燻香が鼻に抜けて、素材そのものの味もしっかり載っていて、絶妙な美味しさだった。居酒屋のツマミでならいつかどこかで食べたはずだが、外食であれほど凝った燻製料理にお目にかかるのは初めてだったと思う。これぞまさしくプロの犯行。熟練の技をまざまざと見せつけられて、ひれ伏すしかない。
 おそらく2日以上前から塩で味つけをして、塩抜きをして、さらに乾燥させて、燻製して、寝かせて……と相当な手間がかかっているはずだ。その手間が想像できるだけに、値段以上の価値を感じた。
 シェフに訊いたところ、部材はナラを使っているのだという。たしかにお魚にはクルミやナラが合うと、書籍やネットなどでよく読む。まだサクラでしかやったことがないので、いつかナラも試してみたいところだ。

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