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ボールを投げる、たったそれだけのことについて ピッチングフォーム試論(4)

 あなたは電車のつり革を持つとき、指先で引っ掛けるようにして体重を預けるだろうか。
 それとも、手のひら全体でがっちり包み込むように固定するだろうか。

 前者の人は、つま先体重に最適化された身体の持ち主であるらしい。
 後者の人は、かかと体重に最適化されているのだそうだ。

 人間は、その骨格や筋肉の形状から、四つのタイプに大別できるという説がある。
 それが「4スタンス理論」だ。

4スタンス理論について

 チェック方法は、インターネットで検索すればごまんと出てくるので、ここでは詳しく述べないでおく。参考までに、下記のサイトなどが判りやすくまとめられている。

 このチェックに従えば、私は

つま先体重+足の外側体重に最適化された」=「A2タイプ

 であるらしい。
 言われてみれば、つり革は指先で引っ掛けるようにして持つし、靴底の減りは外側のほうが早い。
 外側の靴底の減りは猫背によるものとも考えられるが、少なくとも太腿の内旋状態では相対的に踏ん張りが利かないのは確かではある。

 野球に興味を持たなければ、自分の身体の構造を顧みることもなければ、この理論に出会うこともなかっただろう。

 しかし、個人的に、この結果には打ちのめされた。
「4スタンス理論」はあくまで「身体構造を類別化」するものであり「優劣を比べるものではない」とされているが、以前紹介した書籍のピッチング理論を読んで、力学的に正しいと思われる身体の使いかたは、

「かかと体重+足の内側体重」

 であったからだ。

「かかと体重+足の内側体重」の意識

 前回のnoteで、振り上げた脚を下げて重心を沈める際、骨盤の前傾状態を保ったまま並進させるというところまで確認した。ここではまだエネルギーを放出してはいけないので、腰は開かずに、投球方向に対して終始横向きに進んでいくことが求められる。

 このステップ動作において、腰を開いてしまわないために効果的なのは「歩行動作」ではなく「バックステップ」である、と前掲書の著者は語る。
 つまり、骨盤が軸脚よりも後ろ(お尻側)を通るために、それを支える重心も相対的にかかと側に寄ることになると考えられるのである。

 おまけに「骨盤の内締め動作が肝要である」とも前出の著者は説く。
 軸脚をオフバランスで傾けていくのだから、そもそも内側体重なのだが、それに加えて骨盤を締めろというのである。

 骨盤を締めると、その動きで両膝が内に向くように、大腿骨が見かけ上の内旋を起こし、同時に股関節が後方に引き込まれて骨盤は前傾します。そのため、足の裏の内側のかかと寄りに体重がかかって小指側が床から浮き、腰の幅や両股関節間の距離が狭まります。
(前掲書86ページより引用/太字筆者)

 実際の投球動作においては、軸脚は投球方向に対して直角に置かれているのでつま先が浮くことはないし、極端なかかと体重では逆にいびつなフォームになってしまいかねないとはいえ、イメージとしては、ものの見事に「つま先体重+足の外側体重」とは対極の動きである。

 自分の身体が、いかに投球という動作に対して最適化されていないか、道理で幼いころから球が遅く、肩が弱かったのかと、妙に納得してしまった。
 自分の身体について知ろうとしなければ、その理解に至ることすらなかっただろう。

 誤解のないように言えば「A2タイプ」のプロ選手も多数存在するという。たとえば松坂大輔投手、岩隈久志投手らがそれに当たるらしい。
 なるほど言われてみれば、私も投げ終わったあとに伸び上がるような形になる。これはA2タイプならではの特徴なのだそうだ。

ワインドアップで股関節が鳴る

 ところで、猫背改善のために、前回紹介した動画の「ハムストリングスの硬直を緩めるストレッチ」を続けているが、このほどさらに、自分の身体のさらなる弱点を見つけてしまった。
 最初はフォーム習得のためにセットポジションのみで練習をしていたのだが、試しにワインドアップモーションで左脚(踏み出し脚)を高く上げてみたところ、重心を沈める際に股関節がポキポキ鳴ることが判ったのだ。
 痛みこそないが、違和感があってフォームが崩れる。
 調べたところ、どうやら先天的なものではなく、日々の運動不足が祟って「中殿筋」辺りが硬くなっていて、うまく働いていないことが原因らしい。この周辺には複数の筋肉が集まっているようで、原因の特定をすることも難しそうなのが厄介である。

 自分の身体はつくづく投球に向いていないのではないかと内心で嘆きつつ、ハムストリングスに加えて下記のストレッチも日常的に続けることにした。

 自分の身体は、知れば知るほど面白い。
 ボールを投げる、たったそれだけのことから、自分の身体に対する理解が深まっていくのが、いまは面白くて仕方がない。

(つづく)


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