見出し画像

【週末燻製日記】 あれを作った

 水曜日から下準備をしてきたあれを、ようやく今日、作った。

 あれ。

 燻製をするなら一度は作ってみたい、自家製ベーコンである。

 これまで私は、そのまま食べられる加工品を燻すところから始め、ちょっとした下準備や味つけが必要な砂肝、ステーキ肉などに手を広げ、そして燻製卵で「漬け込む」という作業から乾燥させることの大切さを学んできた。

 じつは今回の自家製ベーコンは、ネットに数多ある百家争鳴のレシピはほとんど見ずに、一冊の「お手軽燻製」本に従って、ほとんど見切り発車で作業を進めてきた。燻製には、どこか科学実験めいた面白さがある。ネットで深堀りすればおそらく最大公約数的な最適解が得られるのだろうが、まだ紙の本の力を信じてみたかった、というのもある。

 だから、土曜日に期せずして雨で燻製するのを取りやめたのが結果として正解だったことを、日曜日になってインターネットで調べていて改めて思い知った。雨の日は、たとえ雨水が降りかからない場所であっても空気中の湿度が高いから、燻煙の酸っぱい香りを食材が吸収してしまいやすいのだそうだ。そういえば燻製卵の失敗で、あれほど湿気が大敵であることを学んだばかりではないか。食材そのものが内部に含む水分量だけでなく、空気中の湿気まで気にする必要があるとは、本当に奥が深い。

 さて、前日とは打って変わって気持ちよく晴れ渡った早春の日曜日、いよいよ初めての自家製ベーコンに挑戦した。

画像1

 脱水シートを使わずとも、乾燥はまずまず成功したのではないかと思う。冷蔵庫から出して約三時間、ネットを被せて放置して常温に戻した。キッチンペーパーで拭いてもほとんど水分は出てこず、表面はそれなりに硬い。
 早春らしく風の強い日だったので、自作のウインドスクリーンも設置して、いざ燻製。

 これまでは長くても20分だったので、約40分の長丁場を経験するのも初めてだった。ひとまずサクラのチップは18g。足りなくなったら継ぎ足そうと考えた。
 最小サイズかつ底板が薄いタイプの入門用お手軽燻製鍋を使っているため、熱伝導率が高いのか、コンロの火を弱火にしていてもときどき煙に焦げ臭さが混じる。そのたびに火力を絞りに絞って、ごく弱火にしながら40分。

 できあがったのがこちら。

画像2

 表面は色づいているものの、切ってみると断面は案の定、軟らかい赤っぽさが残っていた。もうちょっとカリカリのイメージだったのだが。
 結局チップは黒くならない部分も多くあって継ぎ足す必要はなかったのだが、やはり火力が足りなかったのだろうか。それにしては、表面に鼻を近づけてみると、焦げ臭いにおいが移ってしまっている。これは失敗かと半ば諦めながら、屋内で冷まして粗熱を取った。

 やはり火が入っていないと怖いので、例によってフライパンで火を通して厚切りにしたのがこちら。

画像3

 とりあえず、ビールを出して妻と乾杯し、試食。



 しょっぱい!!!!!!!!!!!!!!!!


 焦げ臭さはしばらく放置したからか抜けていたのだが、深刻だったのは強烈な塩辛さだった。

 完全な塩抜き不足だった。

 言い訳めいてしまうが、参照した本の名誉のために書名は伏せたうえで該当箇所だけを抜粋すると、まず「塩抜き」の工程には、このように書かれていた。

塩、こしょうを水で洗い流してキッチンペーパーで水けをふき、網にのせて表面がすっかり乾くまで冷蔵庫におく。
写真キャプション)
流水で調味料を洗い流してから、しっかり乾燥させる。

 まず、塩抜きする時間が書いていない。
 さらに巻頭には、こうある。

(この本のレシピには、塩抜きは)ほぼ不要。する場合でも、多めまぶした表面の塩、こしょうや、残ったたれを洗い流すだけで十分。

 いやー……これでいいんですか、山と●谷社さん。

 のちにネットでいろいろと調べ直して、思わず愚痴ってしまいたくもなった。

 圧倒的に塩抜きが足りなかったのだ。
 肉に対して2%の塩をまぶして漬け込んだ場合、たっぷりの水につけて、ときどき水を入れ替えながら3~5時間は冷蔵庫に入れておかねばならなかったらしい。
 また、機械屋TAZUYAさんは、

因みに塩抜きは、
お肉2kgに対して、5~15℃の水5Lで
10~12時間程度しています  ^^)

 と教えてくださった。

 師匠と呼びたい。

 これでまたひとつ、身をもって勉強することができた。

 ところで、この塩辛い肉の塊をどうしたものかと途方に暮れていたら、機転を利かせた妻が夕食のパスタに混ぜ込んでくれた。

画像5

 醤油ベースの超・極薄味つけの和風パスタである。

 食べてみると、これが…………



 とんでもなく美味い!!!!!!!!!!


 さすが我が妻、完璧なリカバリーだった。
 絶妙なバランスの味に、鼻に抜けて残るかぐわしい薫香。

 惚れ直した。

 自家製ならではの作りたての風味は、既製品ではついぞ味わったことのないものだった。

 ほかにもまだまだ燻製してみたい食材はいっぱいあるので、いつかまた、自家製ベーコンにリベンジしたい。 

サポートは本当に励みになります。ありがとうございます。 noteでの感想執筆活動に役立てたいと思います。