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「小説の書きかた私論」の書きかた

 気がつけば「小説の書きかた私論」のスキが三桁になっていました。

 ネットの片隅にひっそりと存在していたい、低浮上の弱小アカウントにとって、本当にありがたいことです。

 今回は「♯noteの書き方」というお題にしたがって、10万字近くあるこの異端の長文noteの「書き方」を少しだけ書いてみたいと思います。

 まとまった長い文章でなにかを語りたいときには、見切り発車で書くことはあまりお勧めできません。ぼやーっとした頭のなかの構想だけで書き始め、最後まで走りきってしまう天才型の著者もいるでしょうが、論理がねじれたり破綻したり、途中で大幅な方向修正を余儀なくされたりするリスクが高まってしまいます。

 まずは文章を書く前に「章割り(目次)」を書き出すことが肝要です。

 ちなみに私は、最初に次のような「章割り」を用意しました。

●はじめに

●第一章 ツカミこそが生命線
まず書いてみることが大事
 日記や模写で培われる書くことの筋肉
書き出しの工夫
ツカミとは
 面白がらせることが第一
 これから述べる技巧は二の次
ゼロから読ませる難しさ
 読者は文章だけが頼りである
一人称と三人称のメリット/デメリット
 一人称
 三人称単視点
 三人称複数視点(リレー方式)
 神の視点
 全球種使えるピッチャーのほうが強い
語り手の魅力
 ワトスンの韜晦
 中間管理職はつらいよ
文体の規定
 文体の正体=三大構成要素の配分
 モノローグ
 書簡体小説
謎=難題の提示
 ページを繰る原動力
 会話=ドラマの発生
  パブリック
  プライベート
  セミパブリック
 伏線の用意
  フラグと伏線の違い
  明示する伏線 未来の提示
 「知る由もなかった」予告多用は避ける
  忍ばせる伏線 驚きにつながる

●第二章 ストーリーの構築と展開
ハリウッド脚本式
 小さい事件から大きい事件へ
 その功罪
起承転結の構成
 細かな起承転結の入れ子構造
 クリフハンガー方式
  リレー方式との親和性の高さ
物語の類型
 すべての根本として:謎の提示とその解決
「日常」ものにも謎はある
【明るい】
 努力、友情、勝利(克服)
 勧善懲悪
 英雄譚
 インフレする敵の宿命
 貴種流離譚
「異能」の飽和
 復讐/奪還/災害復興=幸せへの復帰
 行きて帰りし物語=緊張からの解放
  読者も同時に軟着陸する
【暗い】
 生きづらさ、不幸のオンパレード?
  小説にはマイナスの磁場がある
 ノワール
 ピカレスク
 悲劇
 ハッピーエンドかバッドエンドか
  「イヤミス」という厄介なジャンル

●第三章 小説の三大構成要素
小説の三大構成要素 説明・描写・セリフ
 説明 アクセル/直球
  短編の呼吸/長編の呼吸
  キレが大事
  ショートショートはアイデア一発
  説明過多になってはいけない
   特にSFやファンタジー、歴史
  時制を動かすタイムマシン(詳細後述)
 描写 ブレーキ/変化球
  魅力的な人物描写とは?
  見えているもの/いないもの太陽系図
  風景描写/情景描写
  観念語に頼らない
  比喩
   直喩
   暗喩
  五感を活かした描写〜取材をしよう
  類義語辞典の功と罪
  一家言ある読者〜どこまで考証すべき?
   藤沢周平先生が玄関?
   江戸時代というユートピア
   警察組織のリアリティ
   法医学上の現実と虚構
   専門領域は積極的に活かしたい
   経験なくとも人殺し
 セリフ 等速/投球間
  魅力的な掛け合い
  セリフ話法の話者の限定(説明)
   前フリ動作か、後のト書きか?
   トトトトト書きは難しい
  「言う」の言い換え 動作にも
  同一話者のセリフ間に地の文を挟む手も
  地の文話法の効果
   内面の吐露
   会話の相手との距離感/ずれの創出
   現実と非現実のあわい
   直接話法に引き続く残響
   複数人が口々に喋りかけるノイズ
   噂や陰口
   言い訳や言い淀み
   言外のほのめかし
   呟きや自嘲
   過去の残響
時制の描き分け
 無闇な時制移動は避ける
  特に未来は少なく絞る
 行空き/節によって分ける方法
  日付の明示は逃げか、トリックか?
 地続きに動かす方法とその効果
 現在の描きかた〜リアリティの追求
 過去の描きかた〜後出しを避けてフェアに
 未来の描きかた〜予告をしすぎない

●第四章 終盤のカタルシス
クライマックスに驚きを〜トリック考
 叙述トリックは劇薬
 密室トリックには限界があるか?
 ミスリード
 人物の錯誤
 場所の錯誤
 時間/順番の錯誤
 善悪の逆転
 不在証明 アリバイトリック
 伏線の回収
 物語はフェアであるべき

●第五章 体裁をととのえる
約物のルールを知る
その記号ひとつ削り出せ
推敲する
アナログな紙の視認性の高さ

 面倒くさいでしょうが、興味ある方は、実際の記事の無料部分で見られる「目次」と対照してみてください。文章を書いている途中で、多少の軌道修正をした跡が見受けられます。
 とはいえ、大筋はほとんど変わっていません。
 この時点で全体的な構造を既に作り上げているわけです。
 あとは、あらかじめ設置したチェックポイントを通りながらゴールに向かって書き進めるだけ。思いつくまま、徒然なるままに書き殴るより、よっぽど楽です。もはや頭のなかをアウトプットするだけの単純作業。極論すれば、最初の「章割り」だけで九割がたの執筆作業は終わっているといってもいいでしょう。

 また、文章の構想が長くなればなるほど「思考のレイヤー化」をしておいたほうがよいでしょう。
 前掲の章割りを見ていただければ、スペースキーの字下げで無理やりツリー型の目次にしてあるのがお判りかと思います。

『スペースキーで見た目を整えるのはやめなさい』なんて本もあり、たしかにお説ごもっとも、耳の痛い話ではあります。ただ、残念ながらこのnoteには現在のところ、目次のレイヤー機能が存在しないようです(見逃していたらごめんなさい)。見た目を整えるには、スペースキーで代用するほかありません。

 じつは長編小説の文章だって同じなんですよ。
 詳しくは「私論」に書いたので割愛しますが、いわゆる起承転結にもレイヤーがあって、大きな起承転結の「起」の部分に細分化された起承転結があって、さらにそのなかに細分化された起承転結があることもあって……入れ子構造なのです。

「章割り」を作るというのは、この入れ子構造を曖昧なままにせず、すっきりハッキリさせておくという意味合いがあります。

 以下、具体的な文章のテクニックについては百家争鳴、一人一説、誰もが一家言あるでしょうから他のnoteに委ねるとして、最後に、文章の外見を整えるための表面的な手段として、有料部分の第五章「約物のルールを知る」から、一部を抜粋してご紹介します。

 書いた文章を他人に見せるのであれば、そこには一定のルールが存在する。初めのうちは、もっぱら自分の楽しみのために書き、ルールに拘泥しすぎる必要もないが、少なからず読まれることへの自覚が生まれてきたなら、いわゆる「原稿用紙の使いかた」を勉強しておいて損はないはずだ。
(中略)
 とりわけ気をつけるべきなのは、文字以外の記号「約物(やくもの)」のルールである。

やく‐もの【約物】
 印刷で、文字・数字以外の記号・符号活字の総称。句読点・括弧(かっこ)・数学記号など。
(『デジタル大辞泉』より)

 小説で用いる約物は、おもに下記のとおりとなる。
 丸カッコ( )内は印刷・出版の現場でよく使われている別称、隅つきカッコ【 】内は実際の約物そのものを表わしている。

・読点(テン)【、】
 =文の途中で、文節や意味の切れ目を表わす。
・句点(マル)【。】
 =ひとつの文の終わりを表わす。
・エクスクラメーションマーク(雨だれ)【!】
 =文のあとにつけ、感動や興奮、強調・驚きなどの感情を表す感嘆符。
  通常、感嘆符の直後は一字アキとなる。
・クエスチョンマーク(ハテナ)【?】
 =文のあとにつけ、疑問を表わす感嘆符。
  通常、感嘆符の直後は一字アキとなる。
・カギカッコ【「 」】
 =セリフを囲んだり、固有名詞や強調したい名詞を囲んだりする。
  通常、カッコを閉じる直前には句点を入れずに省略する。
  また、感嘆符の直後にカッコを閉じる場合は、一字アキとはならない。
  基本的に、カギカッコを始めて閉じるまでのあいだに、
  別のカギカッコを挿入してはならない(同一カッコの重ねがけ禁止)。
・二重カギカッコ【『 』】
 =小説をはじめ音楽、絵画などの作品名を囲む。
  また、カギカッコで括ったセリフや文章の途中で、
  さらに強調したい部分などに用いられることがある。
  通常、カッコを閉じる直前には句点を入れずに省略する。
  また、感嘆符の直後にカッコを閉じる場合は、一字アキとはならない。
  基本的に、二重カギカッコを始めて閉じるまでのあいだに、
  別の二重カギカッコを挿入してはならない(同一カッコの重ねがけ禁止)。
・丸カッコ(カッコ)【( )】
 =人物の内心のセリフを囲んだり、補足説明の文や名詞を囲んだりする。
  通常、カッコを閉じる直前には句点を入れずに省略する。
  また、感嘆符の直後にカッコを閉じる場合は、一字アキとはならない。
  基本的に、丸カッコを始めて閉じるまでのあいだに、
  別の丸カッコを挿入してはならない(同一カッコの重ねがけ禁止)。
・三点リーダ(テンテン)【……】
 =おもにセリフの直後につき、沈黙や、言外の含意を表わす。
  通常、二文字分を続けて表記される。
・ダッシュ(ダーシ、二倍棒)【――】
 =構文の中断や転換、語句の省略などに用いる。
  丸カッコと同様、補足説明部分をダッシュで挟むこともある。
  なお、沈黙や、言外の含意を表わすような用法も見られる。
  通常、二文字分を続けて表記される。
・ナカグロ(なかてん)【・】
 =単語を並列するときの区切りに用いる。
  また、肩書きや異称などを冠する場合にも用いる。
  ただし、肩書きや異称などを冠する場合、
  ひとつの文に複数のナカグロがあると見映えはあまりよくない。
  ナカグロを続けて沈黙を表わす【・・・・・・】は、
  明らかな誤りなので避けるべきだろう。

 たったこれくらいのものである。
 簡単ではないか。
(中略)
 出版各社や編集者によっても微妙な差異があるかもしれないが、ごく一般的なルールを示したつもりである。

 ちなみに、表面的な見せかたについてもう一点だけ。

 通常、段落の初めは一字下げとするのが原則となっています。しかし、noteのみならずウェブライティングにおいては、行頭一字下げをすると逆に読みづらいので避けるべき、という人もいるようです。むしろ、今はそちらのほうが多数派でしょう。
 いわれてみれば、そうかもしれません。
 私の場合は紙媒体で育ってきたこともあり、頑なに一字下げを貫いているんですけどね。この辺はもはや好みの問題だと割り切っています。


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