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イタチごっこ

 どんなジャンルであれ、プロの世界はイタチごっこである。雨後の筍の二番煎じでは多少の報酬を得られるかもしれない反面、先駆者と称されるような突出した何者かにはなりにくい。次にどんな時代が来るかをつねに夢想することが、柔軟な発想を生む練習になる。

 たとえばプロ野球の世界もイタチごっこだ。現代野球では、いわゆるジャイロ回転系のカッター(スラッター)を武器とする投球型が第一線級のピッチャーたちの主流になってきて、世間的な認知もだいぶ広まってきた。
 しかし、いつかはこれも攻略され、駆逐されるのが運命だろう。
 いち野球ファンとしては、次はなにが来るのかと、ついつい夢想してしまうものだ。

 将来的に起こりうる大きな変革といえば、やはり球審の機械化、AI化ではなかろうか。いままで人間がジャッジしてきた極めてアナログなストライク判定が、精密に厳密に行なわれるようになるかもしれないのだ。
 これにより増えるのは、どんな配球だろうか。
 個人的には、カーブを最有力候補として、横のスライダー、シンカー(チェンジアップ)といった変化量の大きな、打者から見て逃げていく方向のボールを、アウトハイのストライクゾーンの角にほんの少しだけ掠める投球術ではないかと妄想している。
 現代では高めは危険とされがちだが、ストライクを取ってもらえるなら話は異なる。
 平面的に描写するテレビゲームの影響もあるのか誤解されがちだが、ストライクゾーンというのは本来、立体だ。ホームベースの上空に仮想される五角柱の空間。その一部を投球が少しでも掠めればストライクと定義されている。

 人間が判定している現代では、どうしても球審によってストライクゾーンの広さに違いが出てくる。
 しかも平均球速の上昇により、もはや150km/hは珍しいものではなくなった。そのぶん軌道の見極めは年々難しくなっていると考えられ、捕球後のキャッチャーミットの位置も判断材料のひとつとなっている。球審を騙してボール球をストライクに見せる「フレーミング」なる技術が、現代のキャッチャーには求められているくらいなのだ。

 しかし、機械であればホームベース上の特定の空間を白球が通ったか通らなかったか、それだけをカメラセンサーで判定すればよい。ストライクゾーンの高低は打者の身長に依存して変化するとされているが、有利不利をなくすため、選手ごとにあらかじめ地上何センチから何センチまでと登録しておけばよいだろう。

 この機械化が叶えば、捕球後のキャッチャーミットの位置は判定に関係なくなる。下手すると、ゾーンのアウトハイをほんの少し掠めてなお外に逃げていく緩い変化球が、テレビ中継で見ると到底ストライクには思えないほど遠くの位置にあるキャッチャーミットに収まるかもしれない。
 奥行きを使うならば、ピッチャー側ではなくキャッチャー側の五角柱の角に打者の目線辺りの高さからようやく落ちて掠めるくらいが理想かもしれない。ともすると落差を大きくして、ストライクゾーン通過後にワンバウンドしてからミットに収まる可能性すらある。
(そういえば昔読んだ漫画『ドカベン』で、とんでもない山なりの「通天閣投法」なる投法があったような気がする。あれは極端にしても、もしかしたらAI時代を先取りしたアイディアだったのかもしれない)

 とはいえ、配球で重要なのは一連の緩急や組み立てだ。たとえ針の穴を通すように球審にストライク判定をもらえる投球ができたとしても、球種を読まれ狙い打たれてしまえばそれまでである。たとえばアウトハイの逃げていくカーブは、浅いカウントからのいわゆる「カウント球」として検討されるかもしれない。

 果たしてこの予想がいい線に行っているのかどうか、答え合わせは5年後、あるいは10年後。未来を夢想することは楽しい。

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