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ボールを投げる、たったそれだけのことについて ピッチングフォーム試論(5)

 上げた脚は、下ろすのが道理だ。

 軸脚を投球方向へ傾けることによってオフバランスが生じ、骨盤の並進/内締め動作から踏み出される脚は、その位置エネルギーを地面に伝えることで、今度は地面からの反動をもらって、上体の鋭い回転へとつなげていく。

 このとき、軸脚にも踏み出し脚にも共通して言えることは、とにかくグラグラしないことである。ただ、それは単に「力を入れて強ばる」という意味ではない。むしろリリースの直前まで柔らかく脱力しつつも、骨格の構造を活かしてそれ以上動かないようにがっちり固定するというテクニカルな話である。下半身が上半身を支える確かな土台となれば、コントロールの安定につながる。

 前回のnoteで、重心を沈める際の骨盤の前傾姿勢、および内締めの動作から、基本はバックステップするイメージの「かかと体重」となることが肝要であると書いた。

 それは確かにそうなのだが、勉強を進めるうちに、つま先側の意識というのも疎かにできないことが判ってきた。

 たとえば、踏み出し脚を上げ、まだ重心を沈めずに軸脚一本で垂直に立っている段階。9月22日放送のフジテレビ系の野球情報番組「スワローズ キッズアカデミー」において、東京ヤクルトの石山投手が「軸脚の指で地面を掴む」という感覚をレクチャーしていた。
 がっちり掴みすぎても強ばってしまうが、適度な力で五指を内にすぼめ、体幹を支えるべきだというのである。

 また、踏み出した脚を固定する段階においても、つま先の鋭敏な感覚は欠かせない。先述の番組で石山投手も話していたとおり、踏み出し脚のつま先は、投球方向に向かって真っ直ぐに出す。一塁方向にも三塁方向にも、斜めにブレることは好ましくない。実際に白線の上に踏み出してみて、つま先が真っ直ぐ向いていることを確認する反復トレーニングは有効だろう。軸脚のつま先は右投手なら三塁方向に向いているが、踏み出し脚のつま先は、それとは九十度直角に向くことになるのである。

(のちに軸脚のつま先は上体の動きに導かれて伸長し、投球方向に並進してから三塁方向に滑ることになる。全体重を踏み出し脚に乗せるため、軸脚から一切の体重が抜け、動いてしまうのは当然の帰結である。逆に軸脚が動かないようでは、軸脚に体重が残ってしまっているということであり、ボールに全体重を乗せることには失敗している。ただし、一部の指導で「軸脚を蹴り上げろ」と言われることがあるようだが、わざと意識してそのようにすべきだとは、私は思わない)

 このとき、踏み出し脚をがっちり固定するためには、膝がつま先の前に出てしまわないようにする意識が必要だ。いわゆる「正しいスクワット」の注意点が「膝がつま先の前に出てはならない」であるように、投球動作においても、踏み出した膝の角度を九十度までで固定することで、グラグラとブレることなく、踏み出し脚の股関節が支点となって、骨盤の鋭い回転を生み出せる。
 もし、膝がつま先の前に出てしまう(=膝の角度が鋭角になってしまう)と、膝は右に左にグラグラと割れるように動いてしまいかねず、フォームの安定につながらない。
 この骨格の仕組みを知っていれば、つま先に全体重をかけて踏ん張ることの重要性は感得できるはずだ。また、膝を前に突っ込ませないように、下半身の大きい筋肉から優先的に鍛える必要があることも類推できるだろう。

 以上が、下半身の投球動作についての私なりの試論である。
 これで、

上半身→下半身→上半身

 と最初に位置づけた学習工程のうち、三分の二を終えることができた。
 この試論は残すところあと一回。
 上半身のなかでも、ボールの握りについて考察していきたい。


 

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