#27【裸の付き合い】

昔の人はよく言ったものだ。
 
 
私が小学校高学年ぐらいから
中学ぐらいまでの間、
何か大きなことをやらかして
怒られるときは、決まって
お風呂場だった。
 
 
一通り母親に普通に怒られてから
一緒にお風呂に入るのだ。
 
 
最初はお風呂の中で怒られるのだが笑
 
 
そしたら、なぜかお互いに
いろんな感情がお風呂に染み出し
さっぱりして寝れるのだ。
 
 
今でも、私が実家に帰ったら
2人で銭湯に行く。
 
 
「お湯、熱くない?」
 
「ちょうどええわ、ありがとう」
 
「ほんまありがとうなぁ、
こんな機会作ってくれて」
 
「おばあちゃんこの家きて
ほんまに正解やったわ」
 
 
うちのおばあちゃんは
普段からありがとうの言葉は多い方だ。
 
 
でも、今回は。
 
 
お互いに素っ裸の状態で
おばあちゃんの背中を流しながら
その「ありがとう」を聞いていた。
 
 
普段、服を着ているときには
見えなかった、
あばらが浮き出た胸や背中、
あれだけ歩けてた強靭な脚が
鶏ガラみたいになってしまっていたり。
 
 
それなのに、ガンのせいで
お腹に溜まった老廃物が
出ていかないせいで、
妊婦さんぐらい膨れ上がったお腹。
 
 
その異様な姿に、
私の記憶にない
祖母の姿を見て
 
 
さらには、私はまだ若く
肌も綺麗で、筋肉もあり。
その対比で
 
 
何かを思わずにはいられなかった。
 
 
背中を流すだけで辛いのに
少し震えた声で
ありがとうと言われている。
 
 
涙が流れた。
  
 
体を洗い流し、
足湯だけまだやりたい、
とのことだったので
私だけ服を着て、
祖母も体を冷やさないように
上半身だけ先に服を着て
祖母はお風呂場で足湯、
私とハナは脱衣所で
扉を開けた状態で
話を続けた。
 
 
「実はな、おばあちゃん
こういう介護したことあるねん。
ちょうどちなつぐらいの歳や。
おじいちゃんのおばあちゃんに当たる人が
大腸ガンで亡くなったんやけど、
その人を自宅で介護しとったんやわ。」
 
 
祖母と、祖父が結婚して
母親が生まれて少しの間は
祖父の実家の愛媛に住んでいた聞いている。
 
 
最初は、祖父が長男なものだから
実家で住んでいたらしいのだが
いわゆる嫁いびりがあり、
いつまでもストレスで子供ができないからと
別居をした、という経緯も聞いていた。
 
 
別居してすぐに母親を授かったらしいので
別居は大正解だったと言える。
 
 
「そのおばあさんとは血の繋がりなかったんやけど
めちゃくちゃいい人でなあ、
結婚したときは、新しく孫ができたって
すごく喜んでくれたんや。」
 
 
そもそも、その大腸ガンだった人の
存在すら聞いたことがなかったし、
その介護をしたことがあるとも
聞いたことがなかった。
 
 
「そんなん知らんかったわ。」
 
「うん、あんたのお母さんにも
話したことあるかわからんくらい
人に話してないからなぁ」
 
 
いや、娘には話してやれよ。
 
 
「もちろん当時は、ホスピス医療なんて
なかったし、何もかもがわからんままで。
でも、いびられて、悲しくて、でも
看病しなあかん時とかもあったけど、
そういうときに泣かせてくれたりとか
話し聞いてくれて慰めてくれたんが
その人やったんよ。」
 
 
死の淵に追いやられていながら
それができる人って
どれだけ人ができてたんだろうと
ふと思った。
 
 
「で、その人の遺言で、
別居させなさいと、微々たる遺産しかないけど
その遺産で別居させなさいと
書いてくれてたんよ。それで別居できてん。」
 
 
なんと。
そんな素晴らしい人格者が
身内にいたとは。
 
 
「なんか、ちなつとかぶってなぁ。
当時、おばあちゃんがハタチやった頃や。」
 
 
なるほど、確かに。
共通点があったのか。
 
 
「だから、なんか思い出して
ちなつに話したくなったんや。」
 
「今、おばあちゃんがそんな
すごい人になれてるとは思わんし、
あの人には一生叶わんなって
今でも思うけど。
でも、今話しておかんと
その人はおばあちゃんの記憶にしか
おらん人やから、
おばあちゃん死んだら全部どっか行くやろ?
やから、覚えてあげていてほしい。」
 
 
その晩は、すごく頭が痛くなった。
 
 
私は、その人のように
死に追いやられていながら
人を気遣うことができるのか。
 
 
おばあちゃんみたいに、
当たり前のことをしても
ちゃんとありがとうが言えるのか。
 
 
年を食ってるだけで
頭の悪い、そういうことができない
人もたくさんいるわけで。
 
 
どう人生を生きたら、
おばあちゃんや、祖父のおばあちゃんのような
生き方ができるのか、人に接することができるのか 
 
 
そんなことを考えていたら
頭が痛くなり、気がついたら朝だった。

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