慰霊の日によせて

慰霊の日だ。 先人達の霊を弔い、二度とあのような思いを子ども達にさせないように誓いを新たにする日。

 去年のこの日、僕は基地反対派ではなかった。ちょうど沖縄をめぐるネットでの過剰な叩き、そしてそれに反論できない自分の力不足、沖縄にルーツがあるとはいえ沖縄に住んでいない自分が首を突っ込んでいいのかという疑問、平たく言えば沖縄に関わるのが怖くなっていた。

 そんな中で、久しぶりに見た翁長雄志は別人になっていた。安室ちゃんとのツーショットでもかなり痩せていたと思ったが、それよりも痩せ、髪は抗がん剤からかなくなっていた。

  僕の本質は左翼でありコスモポリタンだと思う。政治が少し耳にはいってくるようになった時は、ちょうど鳩山政権が辺野古以外を断念した時だった。そこから政府は沖縄の民意を聞かず、今に至るまで辺野古移設を堅持している。

 僕は、自分の大切なルーツがある故郷を踏みにじる政府が信頼できなかったし、そんなのが治める国を好きになれなかった。僕の中では日本人である前に琉球人であり、でもそれは周りの誰もわかってくれないことで。そして心は沖縄にあるのに、体は沖縄にはなく、ウチナーグチだってよくわからない。沖縄を感じられるのは、時たま宮古島から送られてくる大量の荷物と、たまにニュースで流れる沖縄の話だけだった。

 そんな中で翁長雄志が知事になった。僕は辺野古移設中止を求める共産党と社民党を支持するようになっていた。自民党は大嫌いで、いなくなればいいのにと本気で思っていた。うちの学校が自民党系で、一度安倍晋三首相が来たことがあるが、本気で石でも投げてやろうかと思ったくらいだ。

 でも、みんな沖縄になんて何の関心もなかった。同級生はみんな沖縄で騒いでるのは一部の活動家だけだと思っていて、苦しみなんて理解できていなかった。今から思えばあたりまえだと思う。僕は祖母がひめゆりで、その苦しさと故郷の懐かしさを知っていた。でも彼らは知らない。

ああ、僕と彼らは違うんだ、と本能的に理解した。

 多分沖縄によりそっているのが自民党だったり右翼だったら、僕は右翼的思想を持っていたと思う。でも最初に沖縄のために戦っていると感動したのは沖縄のために連立離脱をした社民党だった。だから思想形成は左翼的になっていったのだと思う。

 そして、翁長雄志が死んだ。 

 会見での謝花副知事のあの表情、そしてあの日の夜に見た承認撤回の記者会見の動画は今でも忘れなられない。死の一週間前なのに、翁長雄志の目は誰よりも生き生きとしてて、何か別のものを見据えていたように思う。

この男は一体なんなんなのだろう、知りたくなった。その日から食い入るようにインタビューや評論を読んだ。翁長の言葉はどれも魂に響き、かっこよかった。どうやったらこんな言葉を生めるのか、ますます知りたくなった。

 その中で、僕の中に変化が生まれた。自民党を恨む気持ちがなくなり、日本への愛着が多少芽生えた。

それは翁長の保守思想に加え「どこかから持ってこられた基地を巡って同胞がいがみ合う」ことのおかしさに小さい時の翁長が気づいたことを知ったことが大きかった。僕は沖縄に住んでいない、だから同胞じゃないと言われたら悲しい。それと同じで、自民だから同胞じゃないというのは悲しいことなのではないかと思うようになった。

 翁長雄志の原点は、小さい時に抱いたその疑問なんだと思う。そしてそれは解消されることはなかった。むしろ、この構造はどんどんひどくなっていき、それが翁長雄志の政治家人生に大きな試練を与え、皮肉なことに闘う県知事としての翁長雄志を作り上げた。

 翁長雄志に憧れる人は多い。だが、翁長雄志を作り上げたのは、戦後沖縄の矛盾と苦しみだった。

僕の中にはいつからか、翁長雄志の亡霊のかけらとも言えるものが宿り始めた。翁長が何を考えていたのかなんてわかりっこない。でも、彼が小さい頃に抱いたあの疑問と、それをなくすために動こうとする意志は、いつのまにか僕の中に生まれていた。

 今の僕に大した思想はない。左翼でもなくなったと思うし、国を愛するという心もわかるようになった。

 ただ、翁長雄志が夢見た同胞が争わないで済む世界を作るため、そしてもう二度と翁長のような思いをする人間を生み出さないために動こうと思うようになった。

 もう次の翁長雄志を誰かに背負わせてはならない。政治家翁長雄志を生み出した歪な構造はなくさないといけない。

その日が来るまでは、僕の中にいる翁長の亡霊とともにありたい。その日が来たら、再び左翼の僕に戻るだろうから。

僕は少し遅れて新時代沖縄に行くことにする。翁長の霊を弔い、この島を縛る過去をなんとかするために、もう少しここで粘ることにしよう。

 きっと新時代沖縄では、みんながそれなりに喧嘩しながらも仲良くでいているはずだから。


 

 


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