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【詩】椅子に座って

だいぶ昔のことなんだけど
真っ暗な部屋でぼーっとしてたら
天井の隅っこから
グレゴール・ザムザが
ぽとんと落ちてきたんだ
僕はとっさに手元にあった辞書で
グレゴールの体を潰した
とっさっていうか
彼は役立たずだから
仕方ないと思ったんだ
潰されて頭だけになった彼は
なにかブツブツ呟いてたけど
翌朝には真っ白になっていたよ

それから僕は
真っ暗な部屋に寝転がる日々を過ごして
しばらくしたら
何かの拍子にその部屋を棄てて

今は
各駅停車の真っ赤な椅子に座っている

ここはどこだろう
気が付けば僕は
椅子に座って景色を眺めていた
誰かと目が合えば
微笑みながら会釈したけど
窓に映る自分の頭が
あまりに心細そうだったので
思わずそいつに手を這わせた

つむじと顎を
引っ掴んで
ぐ、ぐ、ぐ、と頷かせる
よかっただろ?お前
生きていて、な

頭は必死に頷きながら
次の停車駅を夢想した



自分の誕生日に向けて書きました。
愛、自分。

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