『それからぼくは』
■見どころ、読みどころ■
こどもが生まれた夜のことで わたしがはっきりと覚えているらしいことといえば、やけに月がすっきりと輝いていることでした。「いい月だなあ、いい月だなあ」と思いながら自転車のペダルを踏んでいたような気がします。 しかしこの記憶も、もしかしたらいつか自分で作り出してしまったものかもしれません。そうなると一体どこまでが本当にあったことなのかよくわからない、というのが本当のところです。
自分ひとりで布団を敷いて寝てみると、部屋がとても広く感じられ、その分だけ部屋に暖かさが回るのが遅いような気分になったようです。いつもだったら布団に入ってしまうとすぐに眠ってしまうのに、この詩では 天井を見ている余裕があるのは自分ひとりで眠るときの体温の冷たさに原因があるのではないかと思います。
自分のこどもという気持ちは、すぐさま心になじむようなものではないようです。もっとばくぜんと、これからなにかいいことが起きそうな気がするという程度がいちばん近いのではないでしょうか。ただ親になったというだけなのに、どうしてそんな浮き浮きした気持ちになれるのでしょう不思議なものです。では、どうぞ。
それからぼくは、彼女の家に
「産まれました、男の子です。
母子ともに異常ありません」と電話して、
ぼくの家にも同じようなことを繰り返して、
ラーメンハウスで半チャーハン付きの味噌ラーメンを食べて、
月を見ながら自転車をこいで、
だれもいない部屋に帰って、布団を敷いてそのなかで
きみがどんな顔をしていたか
きみがどんな声で泣いたのだったかを復習して、
成績のいい父親になろうと励んだんだ、天井みながら
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