『晩年感覚』 1太宰治 背中越しの晩年2/2
象徴的なことに、『河童』には生まれた時にはすでに老人であり、次第に若返っていく河童が登場する。この河童が幸福そうに見えるのは、彼があらかじめ失われた部分との不均衡に耐えながら抑制した足取りでその喪失してくる部分に接近していくからにほかならない。喪失―断念―再発見の過程を経て見出される自分の生きる形、一度失ったものとして定義され、余剰の生として感受され玩味される個体の時間、これらの地盤となっているものが晩年感覚だ。この感覚を持っているもの経緯を追ってみると、その生きる形は迂回