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初めての出版した小説の中身を全部あげる!

いらないなら捨てて下さい。
続編のリンクは下にあります。


 

◇第一章 スーツ



アスファルトの臭いがする。


巻き上がった粉塵で前が見えない。


捲れ上がった木々の根が


剥き出しになって、車両が反転している。


ビルや電柱が倒壊して


ところどころ火花が音をたて


散っていく。


汗が目の近くを伝ったのがわかって、


右手で激しく目を擦った。


敵の尻尾が僕の顔面を捉えたことに


気付いたのは、


体に衝撃が走ってからだった。


衝撃で体が回り始める。


景色が凄い速さで回転していく。


もうこの回転にはウンザリだ…


師匠の言葉を最近よく思い出す。


「いいか、直樹。お前は


とりあえず三半規管を鍛えた方が良い。」


フィギュアスケート経験のある師匠は


高速回転に耐えらる体を


している人だった。


当時の僕は車酔い、船酔い、酒酔い


ありとあらゆる酔いが駄目で、


ことあるごとにゲロを吐いて、

師匠をひかせた。


師匠のひいた顔はいまでも忘れない。


僕を傷つけまいと笑顔を取繕っていたが、


上手な笑顔がつくれない人だった。


それがまた、僕が傷付けていたことを


師匠は知っていただろうか?。


回転のスピードが落ちてくると、


胃から何かがこみ上げてくる。


「ゲエェェェェッッ!!」


昼に食べたものが全部でた。


白菜、人参、エビ、キクラゲ、ウズラの卵


イカ、米


「中華丼じゃねぇか。」


いかに自分がしっかり咀嚼していない


ことがわかる。

僕が、地面のゲロに嫌気がさしている


ときも仲間たちが交戦している。


僕達が着ているスーツは


鞭毛(ベンモウ)と言われる毛で


覆われている。


着心地は最悪で、


着ているというより、何かの生き物が


体に纏まりついている感じに近い。


鞭毛を脱いだときは、


体中に体液のようなものがつくから


シャワーがかかせない。


スーツが何でできているかは、


上層部の一部の人間しか知らない。

敵からダメージを受けると、


スーツが鳥肌状になり、波打ちだす。


波が突起に変わり、突起が鞭毛になる。


鞭毛が動き出して、高速で回る。


もちろん僕達の体もつられて回ることで


ダメージを軽減する。

 

軽減するというか、ダメージは


ほぼないに等しい。


それは敵の攻撃で死ぬことはない


ことを意味しているから


集中力のない僕に尚更拍車をかけた。


敵はどこからきて、どこに行くのかも、


目的もわからない。


敵の体は焼いたり、茹でたりすると


赤くなり、旨味たっぷりで美味しい。


食感はプリプリしている。


食べ過ぎると痛風になると聞いたことが


あるが本当かどうかはわからない。


「直樹さん、失礼します!!」


地面でゲロを見ていた四つん這いの


僕の背中を蹴飛ばし、


高々とジャンプした。


鞭毛が回り始め、加速していく。


【岡田】はたしか年下だが、


僕より等級は上だった。


敵の触覚をナイフで鮮やかに


切り落としたかと思うと、


その触覚を両手でしっかり掴み


鞭毛の回転を利用して高速で 


打撃を与えた。

のたうち回る敵を、


【伊東さん】と【ロイ】


が背中にナイフを突き刺し、


背ワタを手際よく抜いた。


しばらくの間、敵は地面を


ビタビタ叩いていたが、


音は小さくなり、やがて動かなくなった。


片言の日本語でロイが、


僕に近づきながら、馬鹿にしてきた。


「ナオキクン、ゼンゼンダメネ」


「ロボットかよ!お前!」


伊東さんが僕のツッコミに対して


少し笑った。

言い返して、ふと気づいたたが、


伊東もロイもスーツにゲロが


付着している。


敵の攻撃をうけたのだろう。


スーツがゲロまみれに


なるかならないかで業務の手際の良さが


わかると言われている。


師匠のスーツが汚れているのを


見たことがない。


「直樹さん、背中大丈夫でしたか?」


岡田が話しかけてきた。

「鞭毛回りだすかとおもったよ。笑」


岡田のスーツはゲロひとつない。


「おし、帰るぞぉー!」


両手を上に伸ばして、背伸びをした。


伊東さんが僕らに呼びかけた。


僕達は背ワタを袋に詰めたあと、


黒いワゴンにのり、支部に向かう。


ワゴンのドアを開けるといつもの


屈託のない笑顔がみえた。


運転手の【奈々ちゃん】だ。


「お疲れ様でした。」と


ゲロのついた僕らを


嫌な顔ひとつせずにねぎらい、


ゆっくりアクセルを踏み始めた。


◇第二章 海老フライカレー



「チャリンチャリンッ」


喫茶店のベルが鳴り、


一番奥のテーブルで師匠が手を挙げて


僕に存在を知らせている。


師匠のテーブルまで小走りで向かった。


「お疲れ様です!!」


タバコに火をつけながら師匠は、


「おう!」と良く通る声で


挨拶をした。


テーブルに向かい合うように座ると、


「調子はどうだ?」


師匠のタバコはバニラの臭いがする。


「仕事ですか?プライベートですか?」


「どっちもだよ。」


マスターが氷が入った水のグラス


をコースターの上に置いた。


「お決まりでしょうか?」


「俺海老フライカレー」


「じゃあ僕はコーヒーで」


「かしこまりました。」


マスターがカウンターにもどっていく。


後姿に師匠と似たのようなものを感じた。


「なんだ直樹、飯食わないのか?」


「業務中吐きたくないので 笑」


師匠は相変わらずの苦笑いをした。


「そのうち吐くことも


気にならなくなるさ」


「そうだといいですけど、


師匠は吐かないから良いじゃないですか。


てか、海老フライ頼むなんて珍しいですね。


嫌いなんじゃないですか?」


師匠は1本目のタバコを吸い終わろと

していた。

「じゃあ直樹は、嫌いな人が困っていたら、助けないのか?」


「んーどうですかね。助けようとは

しますけど、一瞬迷いますね。

海老フライは困ってないですよ?笑」


「普段からそういう訓練をするんだよ。

例え食事だろとなんだろうと、

何も考えずに手を差し伸べられる人に

なるんだよ。

まぁ食べ物の場合は口だけど…

それに嫌いなものがなきゃ、

毎日楽しいだろ。」


「確かに。勉強になります。」


僕がメモをとろうとすると、


とらなくて良いと指示した。

「お待たせしました。」


テーブルに海老フライカレーと


コーヒーが静かに置かれた。


凄く品のあるカレーで


お腹がすいていたら足りないと思う。


テレビでニュースが放送されている。


〘亜美亜水産〙に対しての市民からの


クレームを伝えているようだった。


僕らの会社だ。


街中がゲロまみれで、臭いし、汚い


海獣の死体もなんとかして欲しい。  


とのことだった。

「誰のために戦ってるすかね俺ら。

安月給なのに。」


「ほんとだな。笑 ちなみに直樹は

お金いっぱい欲しいのか?」


「まぁ、あるに越したことないっすね」


師匠は、海老フライを最後に残している。


「お金持ちと貧乏人の違いわかるか?」


「んーなんですかね?お金持ちは

以外とケチだとか聞きますけどね。

お金の使い道を徹底している

とかですか?」


「それもあるかもしれないけど、

一番の違いは何のために働くのかを

理解しているということだよ。」


「貧乏人は置かれた環境に文句を

いうだけで、行動にうつさないだろ?

行動しないから、何も変わらない。

同じ状態や環境がずーと続くんだ。

そのわりには安売りだからといって

お金を使う行動はするだろ?」


「確かに。まさに僕もそうです。笑」


「お金持ちは行動し続けた人達だよ。

行動したから、最善に近い方法も

知っている。それにお金にも余裕があるから人のために働く人も多い。

まぁ、どんな仕事でも、
人のためになってるけどな。

つまりお金の正しい使い道もしってるのさ。

じゃあ直樹、お金持ちも、貧乏人も

変わらないものはなんだ?」


「本で読んだことあります。

時間ですか?」


「まぁ、それもあるけど、結局は

働いているということさ。

さっきもいったけど、お金持ちは

人のために働く人も多い。

貧乏人は、環境に文句をいいながら、

お金のために働き、行動を変えない。

じゃあ直樹、どうしたらお金持ちに

近づくと思う?」


「誘導尋問ですか?笑

どうせ働くならなら

人のために働いたり、

行動すれば良いという

ことですか?」


「全然違う。」


「えッ!?」


師匠の皿は気付いた時には


綺麗になっていた。


「おし、帰るぞ!」


師匠は首回りを掻きむしりながら、


レシートを持ってレジに向かう。


「ごちそう様でした。」


「もう毎回言わなくていいからな。」


「チャリンチャリンッ」


ドアのベルが激しく揺れた。


師匠は急に方向転換して店のドアを


開けたかと思うと、


四つん這いになった。


「オロロロォォオォォオォォオ」


人目を憚らず大量のゲロを吐いた。


慌てて走ってきたマスターが、


師匠の背中をさすりながら、


「お会計は結構です。」と言うと、


師匠は涙目の顔で僕を見上げ、


「やったな!!!」といってウインクをした。


何故トイレで吐かなかったんだろうか。


師匠とゲロとマスターの狭間で


師匠譲りの苦笑いを僕はしていたと思う。

◇第三章 クリーナー

魚特有の生臭い臭いがする。


鞭毛がいたるところに落ちている。


遠くの建物の影に敵の死体がある。


今回は3メーター級クラスだろう。


そこら中にゲロが散らばっていて、


うんざりする。


俺らの仕事はクリーナーと呼ばれていて、


ゲロの清掃と敵の死体の回収を行う。


最後に消臭剤を散布し、終わりとなる。


10年前までこの職業はなかったらしい


のだが相次ぐ〘亜美亜水産〙に


対してのクレームにより、


この職業が誕生したらしい。


業務内容が最悪だと、少しでも


楽しめることはないか探すようになる。


そこで人のゲロで見て何を食べたのかを


当てるゲームが同僚の【杉本】と


の間で一時期流行った。


ゲロを吐いた本人に確認をとることは


できないから、正解はわからないが。


そのせいで今でも無意識に考えてしまう。


今回は白菜、人参、エビ、キクラゲ、


ウズラの卵、イカ、米


中華丼だろうか。


近くにちぎれた触覚が落ちていたので、


紐で束ねて、回収した。


今日はそんなに時間もかからなさそうだ。


数年前、ゲロひとつない


綺麗な漁場を見たことがある。


打撃を一度もくらわなかったか


三半規管が強いのかはクリーナーである


俺にはわからないが、


凄いフィッシャーマンがいるものだと


その当時は驚いた。


もっと驚いたのは敵の死体が


6メートルクラスだったことだ。


死体の周りには、


赤い鞭毛が落ちていたが、


あの鞭毛も初めて見る色だった。


あたり一面赤い鞭毛しか


落ちていなかったから


単独で倒したのだろうか?


漁の内容は極秘とされているから、


何度か尋ねたことはあったが、


俺らクリーナーに情報が公開される


ことはなかった。


いずれにせよ、俺は大きなプロセスの


中の小さな歯車でしかないとわかると


なおさら嫌気がさした。


「菅原、そっち一帯のゲロ処理したか?」


「ああ。終わったよ。」


「今日は何だった?笑」


「中華丼だよ。」


「昼飯中華丼食いにいこうぜ?」


「笑 考えとくよ。」


「笑 おし!じゃあ鮮度の良いうちに

処理するぞ」


【杉本】は同じタイミングで入社して、


子供2人と気の強い奥さんがいる。


1メーターはあるのではないかという


出刃包丁を背中の鞘から抜き出し、


敵の解体を始めた。


敵の殻を綺麗に剥がし、プリプリの身を


綺麗にさばいていく。


背ワタは『亜美亜水産』の奴らが、


仕留めた獲物の大きさを報告するのに、


背ワタをもっていくから、


背ワタ周りは、拭くだけで良い。


頭部は出汁に使えるらしい。


捌いたプリプリの身を


巨大な発泡スチロールに氷と入れ、


トラックの荷台へと何往復もするから


腰がやられる。


「よーし!おわったぁぁあ!!」


杉本が雄叫びをあげた。


「菅原?蕎麦いく?」


「それなら食うかな。」


ゲロを沢山処理したあとの飯は、


そんなに美味しいはない。


2人でトラックに乗ると、トラックから


スピーカーで大音量で音楽を鳴らす。


それを合図に避難していた住民達が、


ぞろぞろと綺麗になった街に


溶け込んでいく。


俯瞰でみたら、きっと蟻も人も


大した変わらないのではないかと


ふと思った。

◇第四章 微糖と無糖とコーラ

おかしい。


いつもと様子が違う。


敵の体液を全身に被ってから


明らかに動きが鈍くなった。


戦闘で吐くことのない師匠が吐いている。


地面に倒れこんだ。


急いで師匠に皆が駆け寄る。


呼吸が浅い。


急いで横たわった師匠のスーツを脱がす。


体中に蕁麻疹のようなものがでている。


伊藤さんが慌てて電話している。


奈々ちゃんが運転するワゴンが


僕らの前で急停止した。


ロイと岡田が担架をもってきた。


全てがスローモーションに見えている。


「キツツキさん!聞こえますか?」


「キツツキさん!」


師匠の名前が何回も呼ばれている。


気付いた時にはもう病院だった。


医師がこっち側に向かってくる


「注射と薬で対応しました。しばらく

様子をみましょう。」


医師は甲殻類アレルギーだと言った。


その時初めて僕らが戦っているものが


甲殻類なんだと知った。


どうにか心を落ち着かせようと、


自販機の前に立ち、


微糖にするか、無糖にするか


悩んでいるとき、


師匠の言葉を思いだした。


「直樹、二兎追うものは一兎も得ずって

ことわざあるだろ?意味知ってるか?」


「2つのことを成し遂げようとすると、

どちらも成し遂げられない みたいな

意味ですよね?」


その時も師匠は海老フライカレーを


食べていて、皿に残した2本の


エビフライで2匹の


ウサギを再現していた。


「そうだな。でもな直樹、そもそも

追っている数が足りないという

考え方もできるぞ。」


師匠はスプーンでエビフライを細かく


千切った。


「あれは二兎しか追ってないから、

一兎も得られないんだよ。

大変かもしれないが、五兎追えば、

確率は上がるだろ。」


師匠は5個に分けたうちのエビフライを


一つ食べた。


「今の話しを聞いて、

直樹が、一つだけ叶えたい夢があるなら、

どうしたら夢に近づくと思う?」


「色んな角度から夢を

追えば良いということですか?」


「直樹の夢はなんだ?」


残り4個のエビフライのブロックが


乾いた皿の上にいる。


「んー特にないですね。」


「つまらない若者代表だな直樹。

小さなことでもなんでも良いよ。

なんかあるだろ?」


「んー お金が欲しいですかね。

お金持ちになりたい。」


「ごめん… それはわからない。」


「えッ!?」


師匠は皿に残ったエビフライを


悲しそうな顔でみている。


師匠はその顔のままレシートをもって


お会計に向かった。


皿には細切れになったエビフライが


4ブロック残っている。


師匠の夢はなんだろうか…


自販機で微糖も無糖もコーラもお茶も


ミネラルウォーターも全部買って


待合室にいる皆に持っていくことにした。


待合室には誰の姿もなく、


看護師さんが、


病室の番号を教えてくれた。


病室に近くと、皆の笑い声がした。


白一色の病室で、


窓から海が見える。


オーシャンビューといえるほど


立派ではないけど十分綺麗だ。


空いた窓から磯の香りがして、


潮風がレースカーテンを揺らした。


師匠は僕の顔を見ると、嬉しそうに


苦笑いをした。


皆に飲み物を渡したとき、


師匠の分の飲み物がないことに


気付いた。


師匠は悲しそうな顔をして、塞ぎ込んだ。


頭を垂れたまま横目で僕を見ている。


それに気付いて皆ゲラゲラ笑った。


「何飲みますか?」


「微糖と無糖とコーラ」


「大丈夫ですか?」


皆がまたゲラゲラ笑った。


3種類の飲みものを買いに


自販機まで僕はまた


歩き始めた。


◆おまけ 奈々ちゃん 

「奈々、起きろ!仕事だろ!」


父の声で目が覚めた。


スマホに設定していたはずの


アラームが鳴らなったかのか


気づかなかったのかはわからない。


昨日飲み過ぎた紹興酒のせいで、


頭がガンガンする。


「おとお、鎮痛剤ない?」


「また飲んだのか?お前、

そこの引き出しにはいっているだろ。」


鎮痛剤を口に放り込み、


前日に残したコーラで飲み込んだ。


「マッズ!!」


エアコンのない真夏の室内に置いていた


気の抜けたコーラは


気の抜けた自分を𠮟るような気がした。


急いでシャワーを浴びるため、


その場で服を脱ぎ始めた。


「奈々、風呂場で脱げよ!丸見えだぞ!!」


父の声を無視して、


ブラのホックを外しながら、


風呂場に向かった。


昔付き合っていた彼氏に


「それでちゃんと洗えてる?」と


聞かれたことを思いだしたが、


今も何も変わらずにここにいることを


証明できる。


急いで風呂場から出ると、


大して体を拭かずに、下着を身に着けた。


「奈々、朝飯は?」


「おにぎり握って、

あとコーヒーいれて!

てか母さんは?」


「パチンコ!」


父はフィッシャーマンだった。


父が退職してから、母さんは趣味に


没頭するようになった。


数々の趣味を経験して現在は賭け事と


いうジャンルを楽しんでいる。


昔母さんが、私が職場の人の


仕事に対する姿勢の悪口をぼやいたとき、


「自分で経験したこともないのに、


とやかく言うな!」と怒れたことがある。


きっと母さんは経験がないことを


なくそうとしているのだと思う。


でも父が漁が疲れ帰ってくると、


「さぞ大物を捕まえたんだろねぇ?


給料が楽しみだ。」と煽っていた。


それ以来父が疲れて帰ってくることは


なくなったけど、


母さんは、言ってることとやっている


ことが違うと思うと幼いながらに


感じた。


自分が成人してから


もちろんそのことを指摘したことがある。


「言ってることとやっていることが

違うようになって初めて大人になったと

言えるの。奈々はまだまだ子供ね。」


私もおとぉも母さんには正論が


通じないことを知っている。


「奈々、おにぎりできたぞ!

コーヒーも水筒に淹れといたぞ。」


「ありがとう!いってきます!」


私は急いで、黒いワゴンの運転席に


乗り込む。


水筒を開けると、ガテマラの香りが


広がって、おとぉの優しさを


感じた。


カラス達が鳴きながら逃げていく。


遠くで敵が暴れてるのがわかる。


建物から姿が見えないから、


今回は小ぶりなんだと思う。


おにぎりを頬張ったとき、


具はわざわざ海老マヨだった。


父は料理上手で母より上手いことを


陰で伝えると、凄く喜んでいた。


きっと今日も皆ゲロまみれで


ワゴンに乗ってくるのだろう。


せめて満面の笑みで疲れを


癒してあげられたらなと思う。


黒いワゴンの後部座席のドアが


空いた。


日の光が射し込んでくる。


ゲロと魚の臭いがして、


昔の父を思いだす。


皆が乗ったのをしっかり確認して


「お疲れ様でした!」と


優しく、元気に伝えられたとおもう。

















































































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