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アタック西本そっくりなチベット族の青年に助けてもらった話1️⃣

2022年10月、わたしは四川省・アバチャン族チベット族自治州を訪れて、ひとりで野生のパンダを探していた。
こう書くと、研究者か何かみたいだが、なあに、いつものことで、単なるあた⚪︎かのひとり旅だ。

「中国には野生のパンダが約1000頭いるらしい」。
これを聞いて、わたしはなぜか自分がパンダに出会える気がしたのだ。

「全国に900人程度いるレアな苗字の人に何人か会ったことがある」、それだけがこの自信の根拠だった。
また、野生のパンダ映像を撮影してSNSでバズろうという壮大な計画(野心)もあった。

しかし、世の中そう甘くはない。
野生のパンダは、テパの村周辺を歩いていればいつかは出会えるDQ2のレアモンスター・はぐれメタルとはわけが違うようだ。
結局、数日間九寨溝や黄龍周辺をとうもろこし片手に探したが、パンダは見つからなかったのである。

パンダに会えなかったわたしが出遭ったもの

そして、お目当てのパンダに会えなかっただけでは済まず、「パンダを見たい」とあちこちで騒いでいたら、厄介なことに巻き込まれてしまった。
いや、ちょっと被害者意識が強すぎた。
巻き込まれてはいない、そう、自ら足を突っ込んだのだ。

というのは、わたしの毎日の旅程(個人旅行者が車相乗りで参加するような小規模ツアー)をアレンジしていた地元の旅行会社の人が、「パンダを見た話を聞かせてあげる」と、食事に誘ってきたのである。
相手は異性で、時間は夜だったので、ごく当たり前の貞操観念から二人だったら断ろうと思ったが、「三人だ」というので油断した。
それに、「とても美味しい麻辣串の店」というのも気になった。
あと、「おごりますよ」というのも気になった。

もしわたしがスズメだったら、間違いなく、あの(ザルの下にコメが撒かれている)古典的な罠に引っかかっているだろうというくらい、わたしはただめしに弱い。
小学生の時に、キャンディやアイスで誘拐しようとする変質者に出会わなかったラッキーに感謝しよう。

視線と視線がぶつかった、その時。

麻辣串の店には、例の旅行社の男性(漢族)と運転手を務めるチベット族の青年がやって来た。

話を聞くと、漢族の男性の方は社長で、チベット族の青年はタクシーの運転手をしながら、この社長からたまにドライバーの仕事をもらっているらしい。

社長はお笑い芸人でいうならばトレンディエンジェルの斎藤司に似ていて、チベット族の青年はジェラードンのアタック西本によく似ていた。
特に青年の方は、(22歳ではあるが、謎の貫禄があり)顔も体つきもアタック西本にそっくりだった。

二人とも九寨溝でパンダをみたことがあるのだという。
実にうらやましい。

食事会は楽しく、麻辣串もおいしかった。
いや、しかし、やはり酒がよくなかった。
いつもの通り、わたしは酒を飲みすぎたのだ。

わたしは普段、およそコミュ障キャラだが、酒を飲むと陽気になる傾向がある。
間違ってふらりとカウンター居酒屋などに入ると、酒が進むうちに見知らぬ人を巻き込んでゆんたくを始めてしまう。
さらには使い古したネタで漫談をして、周りに同調と笑いを強要し、その場を散々賑やかした末に突然電池が切れて、「また会いましょう! ⚪︎月×日!」と言って立ち去ることがある。
しかし、だいたい翌日には二日酔いと激しい自己嫌悪に陥っているので、約束を守ってその店に行くことはまずない。

要するに、わたしは酒癖があまりよくないのだ。
酔って泣いたり怒ったりはしないが、とにかく、やたら陽気になってひとりで盛り上がってしまうのである。

というわけで、麻辣串屋でビールをしこたま飲み、愉快な外国人を演じたわたしは、やり切ったソロステージに満足してホテルへ戻ろうとした。

するとその時、トレンディエンジェルと目があった。

コンマ1秒の世界で、直感的に、これはヤバいと思った。
わたしは思い込みが激しいが、勘は悪い方ではない。
トレンディエンジェルは、わたしに好意を抱いている。
それが純愛でなく、衝動的性愛であっても、とにかく、彼の目つきには、今夜どうにかしようというそれが込められていた。
酒を飲んだわたしは、きっと、愉快な漫談でトレンディエンジェルを楽しませすぎたのだ。

そうだ、わたしは日本という国においては顔が丸い胴長の単なるおばさんだけど、島国を出てユーラシア大陸くらいまで来てみれば、いろいろな好みの男性がいて、好意を持たれることだってあるのだ。
蓼食う虫も好き好き、というやつである。

しかし、実に残念なことに、わたしはトレンディエンジェルの斎藤司よりは、ジェラードンのかみちぃが好きなのだ。

付き合うなら、かみちぃみたいに瞼が腫れぼったく、真顔の時は世の中に対してどこか不満がありそうな顔つきの男性でお願いしたい。
ざんねん、マッチング、不成立である。

斎藤さん「さあ味噌子、二次会へ行こうか」
わたし「あ、二次会は大丈夫です。帰ります〜」
斎藤さん「じゃあ、ホテルまで送るよ」
アタック西本「自分、車出します」
斎藤さん「うん、そうして」

アタック西本青年が運転する車は、わたしが泊まっているホテルの下の売店にとまった。
齋藤さんはダッシュボードから、キーチェーンで繋がれた、たくさんの鍵を持って車外に出た。
その時、わたしが座っている後部座席を西本青年が振り返った。
わたしは西本青年と目があい、「謝謝,我走了(ありがとう、帰るね)」と言って車を降りた。
西本青年は「自己小心点(気をつけて)」とだけ言って売店へ入っていった。

車を降りてからチラリと売店を覗いてみると、斎藤さんは西本青年を伴って売店内をうろつき、酒を物色している。
斎藤さんの手の中で、じゃらじゃらと揺れている、大量の鍵。
鍵。
ん、なんかあの鍵、みたことあるな。。。
あ、そっか、わたしのルームキーとおんなじだな。

その瞬間、わたしは野生の勘を働かせて売店から全速力で逃げたのである。
体育は10段階評価では2で、中学まで50m走は10秒台だった、けど。

そして、体型パンダのわたしは、気持ちだけカモシカで、走って、走って、息を切らして自分の部屋へと駆け込んだ。

セーーーーフ?

そこからは、恐怖の一夜の幕開けである。

そう、斎藤さんは、旅行会社を経営しているだけでなく、わたしが泊まっているホテルのオーナーの一人だったのだ。

後半につづく


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