ちょっと大人になった夏
娘が保育園に通っていた頃のお話
保育園で過ごす最後の夏休みに「お泊まり保育」なるものがありました。
どこでもよくあることかと思いますが、娘の通っていた保育園のプランはこのような感じでした。
なかなか保育園児にしては盛りだくさんですね。
ミーンミーンと、たくさんのセミの声で迎えた朝。
「おはよう」と元気に起きてきた娘。でもその顔はそれとは裏腹にちょっと引きつっているようでした。
今日は、生まれて初めて「ママのいない夜」を過ごすことがわかっているのでしょう。
元気を必死で装う娘でしたが、大好きなロールパンもフルーツもほとんど口にしませんでした。
私も極力いつもと変わらないように振る舞い、準備を済ませて集合場所の駅へ向かいました。
お友達と会った娘は、少し緊張がほぐれたようで、一安心。
それでも心配だったので、出発時間ギリギリまで手をつないで一緒にいました。
「いってらっしゃい」
時間になり、そう言って私は娘の手を離しました。
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トボトボと歩く娘の後ろ姿。
見送る私。
振り返る娘。
小さく笑って、
トボトボトボトボ。
また振り返る娘。
手を振ろうとした私。
でも。
次に振り返った娘のその顔は涙でクシャクシャでした。
ウッ。
朝から私に心配をかけまいと頑張っていた思いが途切れたのでしょう。
「頑張っていたのね」
重度の過保護である私は「一緒に帰ろう」と言い出しそうになるほどでしたが、なんとかグッと、こらえました。
こうして涙の別れをし、先生に抱き抱えられた娘は、ハの字の眉で目を真っ赤にしたまま行ってしまいました。
次の日。
心配を抱えたままの私は、娘を迎えに駅へ向いました。
電車が到着して、ドキドキしながら娘の姿を探していると、満面の笑みで、でも少しはにかんだ様子で、元気よく駆けてくる娘が見えました。
そして、その顔はちょっと大人になったようにも見えました。
こうして、小さな体で、小さな小さな心で頑張った娘は、この夏の日に、何かちょっと、誇らしいものを見つけたようでした。
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