割れた鏡のひみつ
亡くなった叔母の文机の中に一筆箋を見つけた。
お習字を教えていた叔母のきれいな文字が懐かしい。
叔母はこの手紙の相手に恋をしていたのだろうか。
母の3つ年上の姉である叔母は、生涯独身だった。
子どもの頃から私も叔母を姉のように慕い、お習字を教えてもらった。明日からその叔母のお教室を引き継いぎこの家でお習字を教える。少しづず部屋の整理をしながらひとつひとつの遺品につい目頭が熱くなっていた。
庭に咲く桜を見上げて、あの下にその合わせ鏡があるのでは?とちょっとだけ掘りおこしてみたくもなったけれど、叔母の恋の邪魔はしたくない。
芳名帳の中の名前はほとんど知っている人だったが一人だけ見たことのない名前をみつけた。「あの人かな?」細身で品の良い紳士がお葬式に来ていたことを思い出した。そしてそこに書いてある名前を指でなぞった。
「ごめんください」
玄関先に来た人は、私が今指でなぞった名前を口にして、そこに立っていた。
山根あきらさんの企画に参加いたしました。
合わせ鏡ということの意味は、その名の通りかとおもいますが、私は昔からコワイというようなイメージを持っています。
山根あきらさんのお題を見た時に、そうだ、と思って書いてみました。
どうぞよろしくお願いいたします。
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