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憂鬱な月曜をホストマザー直伝のでかマグミルクティーで吹き飛ばす

昨日は本当に体調が悪くて、スマホからこんなこと呟いていました。
で、寝る前に濃いめのミルクティーを飲んでスヤァ…と寝ました。

ミルクティーは私にとってリラックスの素でもあり、気持ちを切り替えるスイッチでもあり、幸せな気持ちにさせてくれるラッキーアイテムでもあります。



話は約10年前に遡ります。
仕事を辞めてしばらくして体調が良くなってきた私は、何がどうなったのか今でも不思議なんですが、イギリスに短期留学することになりました。
若気の至りというか、気の迷いというか、まあ勢いってやつです。
そのあたりのことはまた別の機会に話すとして。

約4ヶ月滞在するにあたり、半分をホームステイ、半分をシェアハウスで過ごしました。
このホームステイが私とミルクティーの運命の出会いになるとは。

ホームステイ先の選び方は色々あるんですが、私は日本の斡旋会社ではなく留学予定の学校に依頼していました。
一応通学距離別にエリアを選ぶことはできましたが、ステイ先は完全にランダム。どんな人なのかは会ってみてのお楽しみ。

予定では18時くらいに空港に着いて、そこから車で1時間ちょい、20時には到着するはずでした。
ところがまず入国審査が死ぬほど混雑入国審査のチェックに恐ろしく時間がかかり(イギリスの入国審査は厳しいことで有名)、車に乗った時点で予定時間を大幅に過ぎ、しかも道中交通事故で鬼のような渋滞にハマる、というコンボを決めた私がホームステイ先に着いたのは22時になろうかという頃でした。
遅刻にも程がある。


もちろん運転手さんが電話で遅れる旨は伝えてくれていたのですが、さすがにここまでとはこちらも向こうも思わなかった。
家の前に着いて、カーテンの隙間からホストマザーらしき女性が眉間にシワを寄せて覗いているのが見えた時に「終わった…」と絶望したのを今でも覚えています。
運転手さんはあっさり帰っていき、残されたのは険しい顔をしたホストマザーと、いたたまれない気持ちでこの空気をどうこうできる英語力があるわけもなく、どうすればええんや…と思いあぐねていた私。


ホストマザーがとりあえず私をリビングに通してソファに座らせて「何か食べる?」的なことを聞いてくれたので、とにかく「イエス、サンキュー」と返すのでいっぱいいっぱいでした。
間もなくして彼女が持ってきたのはハムサンド(文字通りハムのみ)と大きなマグに入ったミルクティーでした。
時間も時間だし、簡単なもので済ませてくれたんだと思います。

そのミルクティー、私の中のミルクティーの定義が全部まるっとひっくり返る勢いでとにかく美味しかったんです。
イギリスのミルクティーは初めてではありませんでした。
旅行で来た時に行く先々で散々飲んでいました。
でも、それが吹っ飛ぶくらい彼女のくれたミルクティーが美味しかった。

で、今日からよろしくね?的な展開だと思うじゃないですか。
そんなことはなかった。
私のホストマザーは、多くの人がイメージする異文化交流を兼ねてふんわりほっこり~なタイプではなく、超絶ビジネスライクなマダムでした。

2つある個室は常に留学生で埋まっており、1人が帰れば翌日には次の留学生が来る、といった具合でカレンダーがびっしりの状態。
あくまで寝食の提供がメインで、週末の家族パーティーにお呼ばれすることもなかったし(私としてはその方が助かった)、彼女にとっての当たり前の生活の中にお邪魔させてもらっているというのが近かった気がします。

急いで食べた後は部屋の案内、この家でのルール、キッチンのこれは好きに食べていいけど冷蔵庫の中のこれとこれ以外はDon't touchよ?エトセトラエトセトラ。
とんでもないスピードで説明した彼女は「もう寝る時間とっくに過ぎてるのよ、おやすみ」的なことを言って寝室に消えていきました。

翌日から彼女と約2ヶ月、無事に過ごせるのか不安になったのは言うまでもなく。

と、思ったのですが。
ビジネスライクではあるけれど、彼女はとても良いホストマザーでした。
もう十数年、それ以上ほぼ毎日留学生を受け入れている、言わばプロのホストマザー。プロフェッショナル。
特別なことをするのではなく、イギリスの人たちはこうやって生活しているんだな、というのを学べたのは彼女のおかげだと思っています。

忙しい日は冷凍のフィッシュ&チップス(あまりに冷凍食品すぎてフィッシュ&チップスだとその場で気付けなかった)だったり、可愛い孫がお泊りする日はお手製のシェパーズパイを振る舞ったりとか、そんな感じ。

そんな彼女に到着翌日の夜にまず聞かれたのは「どのマグがいい?」でした。戸棚にずらりと並んだ沢山の大きなマグカップ、その中から「私の」マグを選べと言われたのです。
今思えば初日の出会いこそ最悪でしたが、彼女はきちんと私をこの家の一員として受け入れる準備をしてくれていました。

本が好きなので即決

で、自分専用のマグが決まったところで早速「お茶入れるわね」となった訳です。
彼女のミルクティーは至って普通、超簡単。
ティーバックをマグに入れて、そこにケトルのお湯を注ぎ、冷蔵庫の牛乳を入れて、砂糖をスプーンに2杯ほど。
以上。

えっ?と思うでしょうが、これが人生で一番美味しいミルクティーの正体。
ちなみにティーバックは普通にスーパーで売っている普通のもの。
牛乳も同じく。砂糖も同様。
ちなみにミルクを入れないという選択肢は存在しません。
紅茶といえばミルクティーです。ミルク入りかどうかは聞くまでもない。
揉めるとしたらミルクが先か紅茶が先か、という永遠の課題についてです。

ともかく、これであの極上のミルクティーが出来るんだからどうなってるんだイギリスゥ!!!!という話なんですが。

そこからはもう怒涛の紅茶漬け。

朝食と一緒に1杯。
週末にホストマザーとリビングにいれば朝食後にすかさず「Cuppa?(Cup of tea?)」と聞かれもう1杯。
夕方学校から帰って夕食前にも1杯。
夕食後にリビングでテレビを観ながら2人で1杯。
飲み終わってしばらくするとまた「Cuppa?」と聞かれさらに1杯。
日によっては寝るまでにさらにもう1杯です。

少なくとも4~5杯は確実に紅茶を飲んでいました。
飽きないからすごいんですが、砂糖の量が恐ろしいので途中からは自分で砂糖を入れるようにしていました。
ちなみに彼女は糖尿病を患っていたので、砂糖の代わりにシュガーレスの甘味料を入れていました。大量に。

彼女との生活も慣れてきて、お互いフランクに話すようになり、ある時「私が用意するよ」と言って彼女の分も作ったことがありました。
いつも隣で見ていた通りのお湯、牛乳、甘味料。
はいどうぞ、と渡して一口飲んだ彼女は速攻で「全然違うわ。まだまだね」と言いました。

文字通り彼女の匙加減、というものがあるんだと思います。
毎日何杯も飲む生活の一部です。自分専用のカスタムが確実にある。
そしてたぶん一生同じものは作れない。

恐るべし英国人の紅茶へのこだわり。


で、そのこだわりは着実に私にも染みついていました。

シェアハウスに引っ越す時に、彼女に「好きなマグを持っていきなさい」と言われました。たぶん、この家から巣立つ人たちに餞別代わりに渡しているんでしょう。そしてこれからもこのマグで紅茶を飲みなさいね、という意味も含まれていたと思います。

ちなみにずっと使っていたお気に入りのマグは、彼女のお気に入りでもあったらしく即刻却下されたので、彼女に選んでもらいました。
ピンク色にハートマーク。
自分じゃ絶対選ばない柄なのに、彼女と過ごした日が確かにそこにあるように思えて今ではすっかりお気に入りです。

そしてシェアハウスでも紅茶を飲み続け、帰国してからもその習慣が絶えることはなく、今に至るまで朝も夜も、なんならお昼とおやつ時間にも紅茶を飲んでいます。

最初はリプ○ンとかスーパーで売っているティーバックで作っていたんですが、全然違う。ティーバッグを2個に増やしたり蒸らす時間を増やしたりしても薄いんですよ。何かが違う。
とうとう痺れを切らしてホストマザーが使っていたのと同じブランドが手に入らないか探し、幸運にも大型スーパーの輸入食品コーナーで見つけて、今でもそれを切らすことなく使い続けています。

Amazonでも買えるけどちょっとお高め。
現地だとびっくりするほど安いのに。

同じ茶葉でも水が違うのかどうあがいても濃さが足りないので、最近は同じブランドのストロングタイプを使っています。
それでもようやくあの頃の紅茶に近づいたかな?くらい。
ちょっと紅茶飲みに帰ってもいい?

とはいえ10年近く飲み続けているので、自分なりのカスタムというかこだわりの形がそれなりに出来てきた気はします。それはそれで嬉しい。

兎にも角にも、仕事が上手くいかなかった日も、体調が死ぬほど悪い日も、よくわからないけどモヤモヤして仕方ない日も。
お気に入りのマグにたっぷり注いだミルクティーを飲んでいると、あの家で過ごした宝物のような日々を思い出して、なんとも言えない暖かい気持ちになるんです。
もはや安定剤の域に達しているかもしれない。
そういう意味でも彼女には感謝しかありません。


さ、紅茶も飲み終わったのでこの辺で。



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