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しろくまさんと僕(5)

第5話「しろくまさんと休暇」

「行くところもなくてさ。なんか悪いね」

これからどうするつもりなの?と聞くと、悪びれた様子もなくしろくまさんは言った。シロクマという生き物は幽霊になると、少し図々しくなるのかもしれない。

しろくまさんとプライベートを一緒に過ごすことはほとんどなかったけど、僕らは相棒として長い時間を過ごしてきた。そういう意味では、休暇だということを除けば、普段どおりといえなくもない。

それに、せっかく化けて出てきてくれたのだから、このさい恨みつらみをぶつけてみるのもいいかもしれない。

そんなわけで、僕としろくまさん…いや正確にはしろくまさんの幽霊と僕の休暇が始まった。

※※

休暇中、僕らは毎日一緒にスーパーに行ったり、本屋にでかけたりして過ごした。夜は家でビールを飲んだりテレビを見たりしながら、他愛のない話や真面目な話なんかもした。

仕事中はよくアドバイスをくれるしろくまさんだけど、家では僕の話を黙って聞いていることが多かった。ときどき「それはすまなかったね」と謝ったり「そうだったのか」と納得をしていた。

とはいえ、もともとプライベートのしろくまさんがそういう感じなのかもしれないし、幽霊になったせいなのかはわからない。

※※※

話したいことがたくさんあった気がしていたけど、実際に本人(の幽霊)を前にすると、大したことは話せなかった。にもかかわらず休暇が終わる頃には、僕の心はずいぶんとスッキリとしていた。

お休みの最後の日の朝、僕が目を覚ますとしろくまさんの姿は見えなくなっていた。

そして、僕は仕事に復帰することにした。

つづく


Twitterにもしろくまさんがいます🐻‍❄️

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