フィクション

また見えた
自分の死に場に迷わず走る。これは間違いなく夢で本当に死ぬことはない。知ってる、僕は何回もここで死んだ。
螺旋階段の真ん中に飛び込んだ。

体が軋むように痛くて起きた。僕は怖い夢ばかり見るが、死ねば目覚めるのだった。酷く泣いていたみたいで、同居猫に顔を覗かれた。

「白いふうせんがみんなを焼いたんだ」
「そうかい

寝るのはもうやめて外へ出た。十五月の空気は高く浮かんでいて、肺の底に沈んだ。
月は僕のこの気分を助長させた。
防寒具か十分に無いのでスキーウェアを着た。歩きづらく、何度も立ち止まった。
コンクリートの地面に差している月光を口に入れたくなって道に横たわった。
全部がどうでもよくて帰り道に毒でも盗んでいこうと思った。
もう一度歩いた。
僕の家には上等な花瓶がある。花が欲しかったのて花屋から盗んだ。家に帰ってきて、花瓶に花と水と、毒を入れた。

「猫、これを倒したらだめだぞ」
「そうかい

気が付いたのは昼前だった。春になっていて白い部屋に住んでいた。日記の後ろのページに君へ宛てた文を書いた。好きな本に香水をかけた栞を挟んで隣に置いた。
それから花瓶に手をかけ、花を取り、逆さに吊るした。僕は毒水を飲み下した。
胸が苦しい、君を想ってるから?、違う、死ぬと思う。僕は死にたがりだったな。

頭が痛くて起きた。猫が死んでいた。
花瓶が割れていて、猫は毒水を被っていた。十五分くらい泣いた。

「死んじゃった、ごめんよ

猫の写真を撮ってから地面に埋めた。

今日も晴れていた。少し泣きたい気分だったので泣いたら、涙が桜並木になった。咳をしたら昨日口に入れた月光が出た。それを折り曲げて、猫を埋めた場所に置いた。屋根みたいで良かった。

「星が見えないね」
僕はチキュウの粉を瓶に詰めて部屋の出窓に置いている。それは誰にも話していないことだった。
まだ幼かった頃、僕は他の子よりも足が速かったし、計算も早かった。みんなよりも先に大人が知っていることを知りだした。どうやって生まれたか、死んだ後どうなるのか、なんでも考えた。生きやすかった。
でもある日、虹の麓にチキュウの粉が積もっていた。僕が住んでいるところから右の方の麓には特にサラサラで綺麗なチキュウがあった。
靴を脱いでそこに詰めた。
裸足で帰ったが気にならないほどに気分が良かった。
それを瓶に移し替えたとき、僕はふりだしに戻ってしまった。
チキュウの粉が光ったのにあてられて、生きる意味も見たかったものも忘れてしまった。死んだら行く場所を思い出せなかった。恐ろしくてチキュウの粉を半分海へ流した。しかし、もう半分を手放すことはできなかった。

僕は秘密にしている。
満ちていた優越感などは消え、このことだけが僕の酸素となった。
そうしたら星が少しづつ消えていった。
僕はまた生きられると思った。
あの時君は、なにかを知ってそうだった。僕は君のいつもを真似して笑ってみせた。

今日は、道の真ん中にチョークでずっと線を引いて帰った。手に付いたチョークの粉、チキュウの粉とある日の毒の結晶、どれも変わらなく見えた。
つまり、そうだった。
僕はまた僕だけで生きていかなきゃいけない。
星の残りも少なくなってきた。

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