生きをする

この世は愛と金と酒、それにタバコ、カフェインさえあればみんな幸せになれる。
私は今、夏にいる。夜とも朝とも言えない時間にベランダでタバコを吸っている。前にアメリカで買ったショートパンツにキャミソールと出で立ちだが、外は蒸し暑く、寒さは感じない。椅子に座り、パステルブルーに塗装されたベランダを見た。2つの植木鉢には赤やピンクの花が植えられている。買う時に名前を知って、もう忘れてしまった花。その隣にはハイボールの缶がある。携帯電話はまだ振動しない。私はベッドにもぐった。

アラームはすぐ鳴った。起きて冷蔵庫を開ける。そこには箱買いしたエナジードリンクが並んでいる。ほかに食べ物はない。プルトップを倒したら戻す。その穴にストローを挿して飲むのが好きだ。
携帯電話をみると、メッセージが2通。
「今仕事終わりました。
  寝てしまったかな?

私は「お疲れ様、おはよう。」とだけ返し、洗面台へ向かった。私は強い。
出社すると同僚に「良くないよー」と言われた。それは本日2本目のエナジードリンクを手に持っていたからだ。なにかに寄りかかりたい人生。好きな映画の登場人物も言っていた。
長時間の仕事を終え、くたびれて家に帰ってきた。お金の為だ。お金があることは心の余裕に繋がる。その時、携帯電話が鳴った。彼だ、私はしばらく待ち、電話に出る。
「昨日はごめんね、仕事長くて。今から大丈夫かな?迎えに行く」
私はすぐに化粧を1からやり直す。香水を振り、窓の方を見つめる。彼の車のライトが私の部屋に差し込んだ時、一目散にアパートを出ていく。
彼の運転する姿が好きだ。左手は私に触れるために右手だけでハンドルを握っている。白く、ピンと伸びたワイシャツ。私の好きな香水。
ジャケットや首元から取り上げられたネクタイは後部座席にある。
「今日はなにを食べようか」
「お酒は飲んでいい?」
「もちろん」
この車の中の空気全てが私の味方だ。
好きな人、お酒、タバコ、今日はいい日だった。
彼は私を家に送り届けた。お嫁さんがいるとこへ帰る彼。かわいそうだと思った。

私は長風呂をし、布団へ入る。
愛はいい、身体をあたたかくしてくれる。お金も好きだ。お金があったら愛はより深まる。お酒は頭をかき混ぜる。考えたくないことはどこかへ無くしてくれる、思い出したかったことは掘り起こしてくれる。
タバコ、好きな人が吸っていた銘柄、私は煙と香水が混ざったワイシャツの匂いを忘れないだろう。
カフェイン、こんな夜を過ごす私への罰であり、励ましだ。明日の朝も私は死化粧をする。

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