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【2000字小説】【童話】『イトとおにのこ』

 むかし、イトというおんなのこが、やまおくでとっさまとくらしていた。
 イトのおとうと、サスケは、なつにやまいでしに、かっさまはあきになると、サスケのすきだったくりをそなえようと、くりひろいにでたきり、ゆくえがわからなくなってしまった。

 ふゆがきた。とっさまとイトはわらでかさやぞうりをつくりくらしていたが、ついにたべものがなくなってきた。そこで、とっさまがまちへいき、ぞうりやかさをうってたべものをかってくることになった。
 とっさまはイトをいえにひとりのこすのはふあんだった。しかし、いえにだれもいなくなれば、なにがはいるかわからない。なくなくとっさまはイトにるすをまかすことにした。
「いいか、イト。こどもだけのいえには、おにがくる。ぼうさまにおによけのふだをはってもろたが、とをあけたらいみがねえ。ぜったいにとをあけちゃならね」
「わかった、とっさま。イトはとをあけない」
 イトはうなずき、とっさまをみおくった。
 
 ひとりになったイトは、はじめはつまらなくかんじたが、ひとりですごすいちにちはながかった。しだいに、さみしく、つらくかんじるようになり、こえのだしかたもわすれてしまうきがして、イトはうたをうたったりするのだが、そのうたごえもまたなんともさびしげで、よけいにきがめいるのだった。
 そんなイトだったから、とっさまがいってみっかほどたったばん、とをたたくおとに、ついへんじをしてしまった。
「とっさまか?」
「おまえ、イトだったら、とをあけろ。これをあずかってきた」
 とのすきまからさしだされたものは、かっさまのうるしのくしではないか。
「かっさまをしってるの?」
 イトはくしをうばいとり、とをあけると、あまりのこわさにかたまった。あしもとに、あたまにつのがあるかげがうかんでいたからだ。
 おにはイトをだくと、イトをつれさってしまった。

「イト、おきんさい」
 やさしいこえにイトはめをあけた。めのまえにかっさまがいた。ここはうすぐらいよこあならしい。たきぎのおくにあのおにがいる。
「かっさま、ぶじだったのね」
「ごめんね、イト。クリタはこわくないからあんしんし」
「クリタ?」
「このおにのこのなよ。くりひろいをしていたら、このこにあってね。くりがすきだっていうから、わけてあげたんさ。したら、じぶんはおにのこで、ひとりきりだっていうから、あのよにひとりでいるサスケと、すがたがかぶってね。かわいそうで、クリタからはなれられなくなっちまった。でも、イト、おまえがしんぱいで。かっさまがイトをこいしがったから、クリタがイトをつれてきたんよ」
 クリタはイトにはなしかけた。
「おれにかっさまをくれ。おまえはとっさまがいるだろ」
「いやよ。わたしのかっさまをかえして」
「おねがいだ。おれ、ひとりはもういやなんだ」
 サスケとにた、クリタのおおきなめからなみだがおちた。
 イトははっとした。ひとりのさみしさをおもいだしたのだ。
 イトはよいことをとおもいついた。
「クリタ、わらをくれ。わたし、かさをつくる。クリタはかさかぶってつのをかくして、わたしらといっしょにくらそう」
「なんだって? むりだ。もしもまわりにしられたら、おまえたちまできらわれる」
「しられなければいい。わたし、ぜったいクリタをまもる」
 イトはかっさまといっしょにかさをつくった。クリタがかさをかぶると、そこらにいるおとこのことかわらなくなった。
 
 いえにもどったとっさまはそれはおどろいた。かっさまといっしょにおにのこまでいたんだから。
 でもとっさまはすぐに、すなおでちからもちなクリタをほんとうのむすこのようにかわいがった。
 むらには、いつもかさをかぶるクリタをからかうものもいたが、かならずイトがとっちめてやった。
 もし、やまでかさをかぶるおとこのこをみかけたら、くりがすきか、きいてみろ。すきだとこたえたら、それはクリタかもしれない。

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