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[SR-001-07] 第六章:視界を広げる、自分の軸を持つ

本ページは「社会人のための楽器の継続と上達の手引き」の全11ページ中の7ページ目で、「第六章:視界を広げる、自分の軸を持つ」の章です。

※本書にはペーパーバック版およびKindle版も存在します。また、書籍の詳細については、シロイブックス公式サイトの書籍情報のページもご利用ください。


権威の問題を再び考える

どうしてそれを気にする必要があるのか

第四章の「レッスンの必要性を考える」の中で、権威を疑うということについて触れました。楽器の上達方法をテーマにした本書で、わざわざこのようなことについてページを割いて述べるのは、この権威というのがとても巨大なもので、楽器を習得したり楽しんだりする上で、強くマイナスに働きうるからです。

ピアノやバイオリンを弾けるようになりたいと内心思っているのに、「小さい頃からちゃんとレッスンを受けていないから無理だよな」という気持ちで最初から諦めてしまっている人というのは、おそらく世の中の音楽好きの中にも少なくないのではないかと思います。無意識的なものにせよ、そこに「こうでなくてはならない」というイメージがはっきりとあるわけです。

権威の問題点は、大きく分けてふたつあります。ひとつは、それがトレーニングの方法として適切でないとか、楽器の物理的な構造や人間の心理の働きについての認識が誤っているといった、純粋に客観的な話です。成功者は、それが本当に効率的だったかどうかということに関わらず、自分がやってきた方法を信じます。また、プレーヤーとして成功した人が指導者として優秀とは限らないというのもよく言われる話です。

もうひとつは、権威を受け入れるということは物事の判断を他人の手に委ねることであって、あなたの主体性というものが消えてしまうという点にあります。主体性がないところに、前向きなモチベーションや改善への意識、粘り強い努力といったものは存在できません。何より、その過程が楽しくなるという将来が見えてきません。これでは楽器の上達や継続ということは望めませんし、仮にそれが得られたとしても、あなた自身はそういうことをすることに何か意味を見出せるでしょうか?

主体性というのは、際立った個性を出すとか、芸術的に突き詰めた表現をするときだけ問題になる話ではありません。これは普通に日常的な趣味として楽器を楽しむ人に対しても重要です。演奏でお金を稼ぐだけならば、権威に頼ったままでももしかしたら可能かもしれませんが、それを心から楽しむということはまず不可能でしょう。

仕事を「やらされる」ような感覚を、音楽の楽しみの中に持ち込まないためには、この権威と主体性という問題について、立ち止まって少しだけ考えてみるということが必要になります。この章の前半で考えていきたいのは、そのような心の姿勢の点検についてです。

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