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[SR-001-10] 第九章:ヒントと寄り道

本ページは「社会人のための楽器を楽しんで上達する考え方」の11ページ中の10ページ目で、「第九章:ヒントと寄り道」の章です。

※本書にはペーパーバック版およびKindle版も存在します。また、書籍の詳細については、シロイブックス公式サイトの書籍情報のページもご利用ください。


まったく主観的な、喜びと価値の感覚について

なぜ本書が生まれたか

この章に続く「おわりに」を除けば、この本の本編はこれで最後です。この第九章はおまけ的な話の集まりなので、本書から要点だけを吸収したいという方は、このまま読み飛ばして次の「おわりに」に進んでいただいても構いません。この章はちょっとした読み物として、時間のあるときにでもゆっくり読んでいただければと思います。

ただ、だからといって重要な話をしないというわけではありません。この章で扱いたいのは、この本を書いた「私にとって」重要だった話についてです。そして、それは読者のみなさんにとっても意味のある話である可能性があります。

この章では、実用的なノウハウの話題からはあえて離れます。上達を考える上では、どこか遠くにある理想について考えることも必要ですが、一方で、実体験に根ざさない話というのはあまり説得力がないという面もあります。そこで、ここから先は私自身の個人的な体験と考え方について、なるべく多く語ってみることにします。本書で述べてきたことが音楽本を売るための机上の空論ではなくて、私が悩みながら音楽に向き合い続けることでようやく見つけた、現実に役立てることのできる考え方なのだということを、読者のみなさんに感じ取ってほしいからです。

この本を書いている私は、十代前半の頃に洋楽ロックを通して音楽の世界に魅せられ、成人してからはマイナーな民族音楽であるアイルランド音楽の演奏活動に没頭することになりました。私は同じ十代前半にコンピュータとプログラミングの世界に出会っていて、それを趣味の活動から職業にしたという経緯があります。私にとって音楽とは、この職業と同じかそれ以上に、人生という時間の全体をかけて、真剣に心を注いできた分野なんです。

音楽というのは、本当に無限の世界です。本書の中で既に述べたとおり、上達の中には明らかに「弾く力」と並行して「聴く力」や「感じる力」「理解する力」というものが含まれています。あなたが十四歳の頃に聴いた、初めて体験する音楽のワクワクとは少し種類が違うとしても、年齢を重ねてからでも音楽の中には常に発見があって、未知の喜びがあります。

何かを知ること、何かをすることによって世界が楽しくなっていくというこの現象を共有したいという気持ちは、私が本書を執筆した主要な動機になっています。本書の冒頭で、音楽と生きる意味について語ったことを覚えているでしょうか。これは何も大げさに表現したつもりはなくて、私は本気でそう思っているし、私が読者に手にしてほしいと願っているのはまさにこのことなんです。

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