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笑う影

 影は音もなく滑空する。暮れることを忘れた灰白色の空に、エイを思わせるシルエットで突如現れ、数十秒後には市街地に飛来し、ひとりの歩行者に狙いをさだめて一瞬後に背後から襲いかかる。影は見事な細長さを誇る尾棘を泳がせながら、彼の首根っこに喰らいつき、上空へと吸い上げ、その黒いはらわたの内部へひと息に飲み下す。たちまち餌食となった歩行者自身がその巨大な影の一部と化し、一部は全体と融けあって、影の中に笑いの渦巻きが沸き起こる。咳き込むのを我慢するような、途切れとぎれの苛立たしげな笑いだ。いったいなんのための笑いなのか、影本人にさえわからない、抑制のネジが緩んでしまった始末に負えない生理的痙攣。これは絶望の笑いなのかもしれない。顔もなく、声も失った、誰でもないものたちの卑屈な舞台挨拶が、いつまでもこの街の空を淀ませつづけている。

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