アーカイブ:【ラン・アンド・キル】

過去に旧Twitterで投稿・連載していたテキストカラテ(ニンジャスレイヤーの二次創作小説)のログ/アーカイブです。ツイート通し番号と専用ハッシュタグの削除をのぞいて本文に変更点は無く当時のままであり、誤字修正や加筆の類はありません。

1.

「サヨナラ!」ウィーブルは爆発四散した。ニンジャスレイヤーは爆発四散跡を見向きもせず、再びカラテ警戒の態勢をとる。

 彼は目前に聳える高層ビルの屋上部をキッと睨む。そこには二人のニンジャが。彼らはニンジャスレイヤーにアイサツをした。「ドーモ、イアウィッグです」「ドーモ、スティングバグです」アイサツを終えた二人の内、スティングバグが、ニンジャスレイヤーを強く睨み返す。

 彼は憎しみに染まった声で赤黒の殺戮者に言う。「よくもウィーブル=サンを殺ったな。アイツはいいヤツだった……なのに……」対する赤黒の殺戮者は、無感情に答えた。「そう悲観することもあるまい。直ぐに再会させてやろう。ジゴクでな。ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

「貴様!」スティングバグが激昂する。「落ち着けスティングバグ=サン。挑発に乗せられてんじゃねぇ」イアウィッグは彼を制止した。「いいか……俺たちは、一度冷静になるべ」「イヤーッ!」「アバーッ!?」ナムサン!ニンジャスレイヤーのスリケンがイアウィッグの額に!  

「サヨナラ!」イアウィッグは爆発四散した。ニンジャのイクサにおいて、何の警戒もなしに悠長に話をするなど以ての外。当然の死である!「な、あ、貴様……貴様ーっ!ウィーブル=サンだけでなくイアウィッグ=サンまでもーっ!」スティングバグは跳躍!そして急降下!

「死ね!ニンジャスレイヤー=サン!死ねーっ!」スティングバグは高高度からの落下を活かした飛び蹴りを食らわせる算段だ。対するニンジャスレイヤーはその場から動かぬ。ただ顔だけを空中のスティングバグへと巡らせた。

「イヤーッ!……アイエエ!?」スティングバグは恐怖した。自らを睨む赤黒の殺戮者に。その目に宿る殺意と憎悪に。彼はオバケを幻視した。ドングリめいて両目を大きく見開いた恐るべきオバケの姿を。それは彼のニューロンが、ソウルが、この殺戮者に抱く恐怖が、誘った幻覚。  

 赤黒の殺戮者は静かに、そして決断的に。ジゴクめいた声で。宣言した。「ニンジャ。殺すべし」


◆◆◆


 ニンジャスレイヤーはビルの屋上を跳び伝い、伝い、奔走していた。相も変わらず騒々しいネオサイタマの夜闇を駆ける。ニンジャ脚力のなせる速力が、風を強く靡かせ、騒音を搔き消していく。

 走る。走る。何のために?ニンジャを殺すために。それだけではない。暗黒非合法探偵として、依頼を達成するために。彼の脳裏に浮かぶは、痩せこけた依頼人ノジマ・ミゴノの、無力を訴える顔。走る。走る。走る……。


◆◆◆


「おう、おう、おう……非ニンジャの屑が、何を反抗的な目で見てやがる?エエッ?……イヤーッ!」濃緑の装束に身を包んだ大柄なニンジャが、学生と思わしき少女を壁に追い詰め、そしてその壁を殴りつけた。「アイエエ!」少女は金切り声の悲鳴をあげる。 

「エエ?おい、イヨミ=サンよぉ。テメェはもう後がないってんだ。後がないってことはつまり死ぬってことだ。殺されるんだ俺に!決定事項だ!だがすぐさま殺すのは惜しいので楽しみたいということだーっ!イヤーッ!」再び壁を打つ!「アイエエ!」イヨミは悲鳴をあげた。  

 イヨミは恐怖に打ち震える。その肢体は縄によって縛られており、身体の自由がきかない。「アイエエ!アイエエ!お父さん!助けて……」「テメェの父親は助けに来ねぇよ!来ねぇってことはつまり死んだんだ!俺たちが殺した!イヤーッ!」打つ!「アイエエ!」 悲鳴!

「テメェの父親はよぉ、このマッポーのご時世の中、自分がいつ死んでも家族にカネが残るよう保険に入りまくってやがったんだ。感動的だろう?そしてそれを俺たちが奪う!なんせマッポーのご時世だからな!」ニンジャはカードをちらつかせながら高圧的にイヨミに言い放った。

「そんな……そんな。お父、さん」イヨミは涙を流す。彼女の父ミゴノは、男手一つでイヨミを育ててきた。マッポーの世の中、カロウシと隣り合わせの労働環境に必死に耐えながら。そんな父が、なぜ死なねばならなかったのか?イヨミには理解できなかった。したくなかった。  

 ……『いいかいイヨミ。父さんな、ちょっとな、悪い奴らに狙われてるかもしれないんだ』『なにそれ。ドラマの影響?』『あはは……うん、まぁ。だから、父さん、探偵さんにな、頼むからな。だから少し遠出しなきゃな』『せっかくの休日なのに?』『うん、うん……ごめんな』

『お父さん。サムライ探偵サイゴはフィクションだよ?』『ははっ、そうかもな。でもな、探偵さんはな、いるんだよ。サイゴは居ないかもしれないけれど……』……それから先の会話をイヨミは覚えていない。ついぞ先日の事であったのに、思い出はセピア色だ。

「おい!なにをボケッとしてやがる?」ニンジャがイヨミに掴みかかる。彼女は現実へと、今の状況へと引っ張り出された。「アイエ……」「ファックだ!そしてサヨナラだ!マッポーのご時世だからな!お前だけではないぞ、俺の仲間がもっと女を連れてくる!」

 ニンジャは下劣な顔をイヨミに向ける。荒い息が彼女の顔にかかる。イヨミは目を閉じ、グッと堪えた。「テメェは選べるぞ。今ここでヨロシクするか、俺の仲間達とヨロシクするかだ。選んでいいぞ!はひひひひ!」  

 ニンジャがイヨミを苛んでいたその時。彼のポケットの中で、IRC端末がスカム音を鳴らした。ニンジャはイヨミを睨みつけた後、苛立たしげにそれを取り出し、チャット画面を開く。そこにはウィーブル、イアウィッグ、スティングバグという名前が映し出されていた。

「なんだあいつら。もう上玉を見つけたってのか?ハヤイな」ニンジャはIRCチャット会話を行う。《見つけたのか》すると瞬時に返答が送信されてきた。《上々だ》スティングバグだ。「こんなにタイプ速かったかあいつ……さては相当興奮してやがるな。期待できそうだ」

 ニンジャは返事を送信する。《上玉なんだな?》《三人だ》直ぐさまの返答。「ホー、三人……三人だとよイヨミ=サン。三人だぞ!お前を合わせりゃ四人だ!実際豊作な」「……」イヨミは悲鳴を噛み殺す。先程想起した父との会話が、少しだけ彼女に勇気を与えてくれた。

 ニンジャはイヨミに向けていた視線をIRCチャット画面に戻す。新たな返信が来ていた。やはりスティングバグ。《直ぐに到着する》《そうか。イアウィッグ=サンとウィーブル=サンも何か喋れよ》《二人は片手でIRCを弄れるほど器用でない》《なるほどな》

《もうじき着く》スティングバグからのその返信を見ると、ニンジャはIRC端末を仕舞った。「スティングバグ=サン、やるときゃやるんだな。おい!イヨミ=サン」ニンジャがイヨミの上着を乱雑に破り捨てる。イヨミは目を閉じ堪えている。「ナマイキな態度してんな!」

「これから四人纏めてヨロシクするつもりだが、先に少しだけ楽しませてもらうことにする!マッポー!バンザイ!」ニンジャは下卑た笑みを満面に浮かべ、イヨミの服を更に破り捨てようとした。彼女は、ただただ堪えていた。父との思い出だけを頼りに、ただただ、堪えていた。

 その時。「イヤーッ!」突如として、ジゴクめいたカラテシャウトがこの場に響き渡ったのである!CRAAAAASH!冷たく閉ざされていた鉄扉がひしゃげ、吹き飛ぶ!「なに、グワーッ!?」吹き飛んだ鉄扉がニンジャに直撃!

「え」イヨミは目前で起きた突然の出来事を理解できず、唖然としながら、入口の方を見た。そこには、赤黒の装束と死の香りに身を包んだニンジャが立っていた。

「ドーモ、ローカスト=サン。ニンジャスレイヤーです」赤黒のニンジャによる威圧的なオジギ。イヨミは故しれぬ恐怖を覚えた。同時に、気が遠くなる感覚を覚えた。彼女は父との思い出を抱きながら、静かに失神した。 

「ヌ、ヌウッ……」濃緑のニンジャ……ローカストと呼ばれたそのニンジャは鉄扉を難儀そうに振り払った。そして死神を見、震える声でアイサツをした。「ド、ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ローカストです」その声は先程までとは打って変わり弱々しい。「何故俺の名を」  

「ローカスト=サン。オヌシに届け物がある」死神はローカストの問いに答えず、言葉を切り出した。「受け取るがいい。餞別だ」そして何かをローカストへと放り投げる。「何……アイエエ!?」ローカストは素っ頓狂な悲鳴を挙げた。何故か?理由は死神からの餞別にあった。  

 おお、ナムアミダブツ!餞別と称して放り投げられたものは生首!ニンジャ頭巾とメンポを着けた生首である!それも一つではない、三つだ!コワイ!「アイエエ!アイエエ!」恐慌するローカスト。死神はジゴクめいた声で「三人だ」と言った。

「アイエエ!アイエエ!」「オヌシの名と居場所を何故私が知ったか。その三人に質問しに行ってみるがいい。イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンがローカストへと一直線に飛ぶ。ローカストは全く反応できないまま、額にそれを受けた。「アバーッ!」貫通!  

「サヨナラ!」脳漿を撒き散らしながらローカスト爆発四散!ニンジャスレイヤーはザンシンした後、イヨミの元へと歩みを進める。そして彼女を縛る縄を千切り取り、彼女を抱えた。

 死神は走る。か弱き非ニンジャの少女を抱えながら。その途上、少女がゆっくりと目を開けた。そして己を抱える者を見、譫言めいて呟いた。「……お父さん?」死神は「私はオヌシの父ではない」と答える。だが少女はその答えを聞く間もなく、再び眠りに落ちていたのだった。


◆◆◆


 数日後。イヨミはネオサイタマの雑踏の中に居た。あの日の事は夢か何かだと思いながら、日々を生きていた。だが事実として父は死に、大量の保険金が下りていた。彼女はその事実を受け止めきれないまま日々を生き、今日も雑踏の中を歩く。「……あれ?」

 イヨミは雑踏の中に何かを見つけたようだった。「お父さん?」上ずった声でそう呟く。しかし数秒後、彼女は誤ちに気がついた。父と思ったその人物はトレンチコートを羽織り、ハンチング帽を被っていた。父はそんな服装は持ち合わせていなかったし、背丈もまるで違っていた。

「……そうだよね。お父さんは、もう、いない……」イヨミは俯き、呟く。彼女はこの時、漸く現実を受け止めることが出来た。そして、その現実に向かい合う覚悟が出来た。イヨミは顔を上げた。悲観を捨てた顔だった。(お父さん。私、頑張ってみるよ。だから。だから……)

 イヨミは雑踏の中を歩く。前を向き、歩く。強く、逞しく。トレンチコートの男はその姿を見届けていた。イヨミはそれに気づかないほどに前を向いて歩いていた。彼女の姿は雑踏の中へ消えていく。トレンチコートの男はイヨミとは反対の方向へと、雑踏の中を歩んでいった。


【ラン・アンド・キル】


◇回顧録◇

初回連載時は【ヒストリー・リピーツ・ヒムセルフ】と並行して連載していた短編エピソード。アーカイブ化にあたって、初回版と再放送版があるエピソードは再放送版をアップロードするようにしており、このエピソードも同様に再放送版のものを掲載している。初回版では冒頭から凄まじいミスをおかしており、実況参加してくださっていた方々に指摘を受け、直ちにケジメがなされた。再放送版ではしっかりとミスが直ってあり問題はないことですね?
テーマとしては『シンプルさ』を追求しており、話の内容もシチュエーションもスレイも至って簡潔。尚且つ第三部らしさ、フジキドらしさを考えて執筆した。シリーズモノのテキストカラテを書くことが多かったので、たまに箸休めとしてこういったわかりやすいSSを書いていた。そういった単発短編のなかでもお気に入りのエピソードのひとつだ。

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