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ビールと水〜⑤pHの基本

前回からの続き
前回は、酸と塩基の定義を確認しました。ざっくり言えば「ビール屋的にはブレンステッド・ローリーの定義をしっかりおさえて、できれば電子の動きに着目したルイスの定義も意識したい」です。今回はいよいよpHについて。

pHとは

「pHは水の性質を示し、0~14の数値で表され、pH7を中性とし、7より小さい場合は酸性、大きい場合はアルカリ性」ということは多くの人が知っているとおりです。このpHが具体的に何を示しているのかというと、水溶液中の水素イオン(H+)濃度なのです。pH7とか2とかいう数値は、1Lあたりに存在する水素イオンのmol数から導かれます。(molについては後ほど説明します。)例えば1Lあたり水素イオンが10のマイナス2乗(1.0×10^(-2))mol存在しているとすると、pHはこの指数部分のマイナスをとった「2」ということになります。

pHと[H+][OH-]

つまり、上の図のようなことです。H+が多いと酸性、OH-が多いとアルカリ性です。水溶液中のH+とOH-は化学平衡により一方の指数が増えると一方が減ります。それを表しているのが水のイオン積です。

水のイオン積

水の電離

純粋な水(理論的な純水)において、水はわずかにH+とOH-に電離します。25℃の時、H+の濃度とOH-の濃度を掛けたものは1.0×10^-14(mol/L)^2となり、温度が一定ならこの値は変わりません。下記の式が成り立ちます。

Kw = [H+][OH-]  = 1.0×10^-14(mol/L)^2 

Kwは水の平衡定数といいます。水素イオン濃度(mol/L)はH+を[]でくくって[H+]と表します。水酸化物イオン濃度も同様に[OH-]と表記します。上の式はつまり水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度をかけると1.0x10^-14という一定の値になることを示しています。
質量作用の法則によると、平衡定数は温度と圧力が同じであれば一定です。これによりH+の濃度が大きくなるとOH-の濃度は小さくなります。なので水素イオン濃度指数(pH)が4のときは、水酸化物イオン濃度指数(pOH)は10になります。指数の数字の合計が常に14になるということです。
このあたりの仕組みをもう少し深堀りすると、緩衝能とルシャトリエの原理の話になるのですが、それは今後アルカリ度を取り上げるときに説明したいと思います。

pH留意点

pHは対数なので、数値が1.0変化すると、実際の水素イオン濃度は10倍または1/10になります。pH7.0の中性の水溶液に酸を加えてpHが6.0になったとすると、その水溶液の水素イオン濃度は10倍になっているということです。ではpHが0.5とか0.8とかの値で変化するとどうなるでしょうか?

pH変化と水素イオン濃度

この計算は暗算では難しいですよね。スプレッドシートとか電卓とか計算するとこうなります。上の表によるとpHが0.5下がると水素イオン濃度は3.162倍になるようです。5倍とかじゃないってことですね。

molとは

水素イオン濃度は1Lあたりに水素イオンが何mol含まれているかで考えますが、このmolという単位についてざっくりと。原子や分子は非常に小さいので、1個単位だとグラムなどの単位で表すのは困難です。そこで化学では、物質の粒子を6.02×10^23個集めたものをmolという単位を使って表すことになっています。1molの炭素は12g、水は18gということになります。
ちなみにWikipediaなどで参照すると正確な水のモル質量は18.01528 g/molとなるのですが、これは酸素原子や水素原子の中にわずかな割合で同位体が存在するためです。また6.02×10^23はアボガドロ定数というのですが、実際にはこの6.02の後にも小数点以下の数字が続きます。

molってどれくらい大きい数字?

ためしに、6.02x10^23という数字がどれくらい大きいのかをビール屋が目に見える単位に当てはめます。麦芽1粒が0.03gと仮定します。麦芽を1mol集めると、1.8x10^22g=1.8x10^16トンになります。よく分かりませんよね。 10^12が1兆、10^16が1京なので想像しづらいほど大きいということは言えます。この麦芽でFar Yeastのビールが何年分製造できるでしょうか。年間製造量を500KLと仮定するとなんと217兆年分になります。ちなみに地球が誕生して46億年、宇宙が誕生して138億年しか経ってません(笑)。
話を水に戻しましょう。中性の水溶液には水素イオンと水酸化物イオンがそれぞれ1.0x10^(-7)mol/lずつ存在します。1Lの水は55.6mol程度なので、55.6molに対して電離している水(H+とOH-)は、1.8x10^-9molということになります。これは5.56億分の1という非常に小さい割合です。

次回へと続く

今回はpHについてでした。ちょっと退屈な基礎編はぼちぼち終わりです。次回からはpHがビールにどう関わってくるのかを書いてみたいと思います。まず次回は醸造工程におけるpHの変遷をざっくりと追いかけます。

お読みくださりありがとうございます。この記事を読んで面白かったと思った方、なんだか喉が乾いてビールが飲みたくなった方、よろしけばこちらへどうぞ。

今回も新しいビールの紹介です。Far Yeast Momo Common。山梨市の「ピーチ専科ヤマシタ」さんの桃を使い、山梨を代表するイラストレーター神山奈緒子さんにラベルをデザインいただいた、ザ・山梨なビールです。ぜひpHに思いを馳せながら飲んでくださいw

Far Yeast Momo Common

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