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音楽家は、チャゲアスのここがスゴいと感じてしまう。 《プロのオフトーク #2》

音楽とはなんなのか。
なぜ、自分たちはCHAGE and ASKAの音楽に惹かれ続けてきたのだろうか?
そんな大きくて狭い(!)話題を、音楽ど素人の私と、プロミュージシャンとして活躍する野井洋児さんとで語り合う、《プロのオフトーク》シリーズ2回目。

・シリーズ1回目は、こちら
野井さんの詳細なプロフィール、なぜこんな連載が始まったのかについて。

今回のテーマは、「音楽家は、チャゲアスのここがスゴいと感じてしまう」
プロの感じるその深い深い理由を、がっつりと聞いてみました。

●チャゲアスのような音楽は、作れない⁈

s.e.i.k.o:
野井さんのことは、CHAGE and ASKAの魅力について書かれたブログを先に拝見してまして。音楽家の方が見ているポイントに、とても興味を引かれました。

野井:
ありがとうございます! いつも僕は、「一番好きなアーティストは?」と聞かれたら迷わず「CHAGE and ASKA さん(以下チャゲアス)と、David Benoitさんです!」と答えています。それはおそらく、死ぬまで変わりません。
それくらいチャゲアスの音楽、パフォーマンス、二人のお人柄やビジュアルなど……すべて好きで、楽曲もとてもよく聴いています。

元々ブログを始めた時は、自分の作曲家になるまでの「物語」のようなものを細々と書いていました。
その中で、David Benoitさんについてはちょこちょこ書いていたのですが、チャゲアスのことについて、全く触れていないことに気が付きまして。
そこで昨年末に、とても好きなアーティストとして、何回かに渡って魅力を書いていったんです。
するとファンの方々から、予想以上の反響をいただきまして……ありがたいのと同時にびっくりしております。

s.e.i.k.o:
私もファンの方々の間で話題に上っているのを見て、ブログを読ませていただきました。
どこがすごいのかを、とても具体的に書かれている点が珍しく感じて、やはりプロの方の視点は違うと。

野井:
ありがとうございます! ブログは今読み返してみると、結構、僕自身の想像の部分が多かったり、「ああ書いたけれど、あの曲は必ずしもそれに当てはまってないよなぁ……」と後から思ったり、、ちょっと恥ずかしい部分もあるのですが、そう言っていただけると嬉しいです。

しかし、自分のブログでも何度か書いていますが、そんなに好きなアーティストなのに「じゃあ、チャゲアスのような雰囲気の音楽はつくれるのか?」と聞かれたら、即答で「作れません!」としか、答えられないのです

ブログの最初の方で、チャゲアスのことに全く触れる機会がなかったのは、影響を受けているのに、「じゃあ、そういう音楽性を目指そう」という発想が、不思議なくらい浮かばなかったからだと思います。
「絶対に真似できない作風だ」と思っていたので。

s.e.i.k.o:
プロの方でも、そう思うんですね……。そこが不思議なところでした。

野井:
はい! 職業作家の仕事は、色んなアーティストのために曲を書くことなので、言い方に語弊があるかもしれませんが、「じゃあ、誰々の何々という曲のような雰囲気のものを作ってください」とオーダーを受けたら、そこにかなり雰囲気を近づけることは、大抵の場合は可能です。

もちろん、作曲の目的は、そのアーティストが一番映える世界観を持った、オリジナリティに溢れた作品を作ることであって、決して「何かみたいなもの」を作ることではありません。
しかし、それを可能にする為には、ある程度、何かのジャンルだったり曲調に近づけていく、極端に言うと、いざとなればほぼ同じスタイルの作品にしてしまえる位の「物真似する」技術を習得していくことが、多少の個人差はありますが、必須だったりします。

そういった観点から見た場合、僕はチャゲアスの、あの雰囲気を出せる自信がありません。とてもよく聴いている音楽であるにも関わらず、です。

曲がどうなっているのかは後から分析することはできるし、理解することはできるのですが、あくまでそれは「後付けの分析」であって、じゃあ「自分がそういう作風の楽曲を作れるのか」と言われたら、全く作れそうにないのです。

s.e.i.k.o:
そういう風に感じるアーティストは、他を見渡してもかなり珍しい、ということなんですね。

野井:
珍しいと思います。
もちろん他のアーティストさんの世界観を再現する場合も、細かく言えばそうなんです。雰囲気を近づけることはできますが、「本家と遜色ないもの」となると、本人ではないので絶対に無理です。

それでも、「多分、この人はこういう音楽に影響を受けて、こういう練習をしたり勉強しているから、こう作ればいいのかな?」と自分なりに推測して作れば、それなりに世界観は再現できたりします。

ところが、チャゲアスの音楽に至ってはそれすら難しく感じる、というのが本音のところでしょうか。

それは曲だけでなく、歌詞に関してもそうです。
作曲する際、たまに歌詞を書くこともあって、デモ段階でASKAさんっぽい言葉の選び方の歌詞を、一時期書いていたことがありました。
けれどやはり全然、曲にうまく乗らないし、その歌詞でデモの歌を録音しても、全く曲にピッタリとはまらないのです。

なので僕はある時期から、音楽性の部分では「チャゲアスから受けた影響を反映させよう」という部分からは離れて、曲を書くようになりました。

s.e.i.k.o:
うーん、そうだったんですか……。
「歌詞に関してもそう」というところがまた、驚きです! 素人からすれば、「歌にピッタリとはまらない」という感覚からして未知なのですが……。

つまり野井さんにとってのチャゲアスは、「作詞作曲の良いメソッドとして創作に反映する」という視点からは離れざるを得ないようなアーティスト、ということなんですね。

野井:
なんなのでしょう? 自分でも、なぜできないのか、そして感覚的に最初からなぜ「できない」と思ってしまうのか、すごく不思議なのですが。
それでも「影響を受けているかいないか」と問われたら、間違いなく受けています!

チャゲアスが、ファンや評論家、多くのミュージシャン方からとても高く評価されている点の一つに、「唯一無二のコード進行」だったり、「奇想天外な曲の展開なのに、キャッチーなメロディ」というのが、挙げられると思います。

でも、自分が影響を受けているのは、実はそこではなく、むしろ、彼らのもう一つの大きな売りである「オーソドックスであっても際立ったメロディの楽曲を書く」という部分です。どこまで実現できているかは分かりませんが、そこは、とても意識しています。

●ここがスゴい① 「オーソドックスだけど出色のメロディ」

s.e.i.k.o:
そうですか! 私、音楽通の方々が語る「チャゲアスって実は複雑」という部分が理論的にわからないことに、コンプレックスを持っておりまして(笑)。
どうしてもその複雑性、唯一無二で奇想天外な部分、というようなビビッドな印象だけを「個性」と思ってしまう素人としては、すごく興味深いお話です。

野井:
よく見落とされがちなのですが、チャゲアスのもう一つの魅力は「飛び道具を使わなくても聴かせられる、出色のメロディ、歌詞」にあると思います。
もちろんこれは作家としての面だけでなく、お二人の歌い手としての技量、パフォーマンス、それを支える超一流プレイヤーの演奏が合わさり、それを際立ったものにしている、ということは言うまでもありません。

お二人のデビュー当時の楽曲を聴くと、つくづく感じるのですが、比較的易しいコード進行で、素直に作っている楽曲もたくさんあるのですが、どの曲も、恐ろしいくらいのクオリティです。

ちなみに、チャゲアスのデビュー当時の楽曲で、僕が初めて聴いたのは、チャゲさんが作詞・作曲された「冬に置き去り」という曲と、同じカセットテープ(!)に入っていた、飛鳥さん作詞・作曲の「流恋情歌」、そしてデビュー曲の「ひとり咲き」でした。
当時、日本の至る所で耳にしていた「SAY YES」や「no no darlin’」のイメージが強かった僕にとっては、かなり衝撃的でした。

そんな、いわゆる「オーソドックスタイプ」の楽曲の中でも、特に僕は「男と女」や「安息の日々」、そしてASKAさんのソロアルバム『SCENE』に収録されている、「伝わりますか」や「今でも」などが大好きです。そのあたりの影響は、かなり受けているかもしれません。

自分は過去に、岩崎宏美さんにも何曲か楽曲を提供させていただいたことがあるのですが(揖保乃糸のCMソング「歌になりたい」など)、そういう曲が書けたのは、間違いなくASKAさんの影響を受けていたからだと思います。

s.e.i.k.o:
岩崎宏美さんといえば、『SCENE Ⅱ』収録のデュエット曲「Love is alive」。そんな岩崎さんに「歌になりたい」だなんて……もう、どうしてもASKAさんが浮かんでしまいますね(笑)。
‘17年リリースということは、ASKAさんが出す前に、先に野井さんがやってらっしゃった(笑)。

野井:
そうなんです! ASKAさんが「歌になりたい」をライブで歌われたり、CDリリースされた時は、タイトルを見てすごくびっくりしました!

そして今、s.e.i.k.o さんが挙げてくださった「Love is alive」、実は、僕が高校生の頃、合唱コンクールでクラスの自由曲として歌った曲でして、結果は……見事にうちのクラスが優勝しました!
ちなみにその頃の高校生の男の子たちは、かなりの割合で、「SAY YES」のMVのASKAさんのような髪型をしていました(笑)。

s.e.i.k.o:
そんなエピソードまでお持ちだとは、なんともご縁が深い(笑)。
声の美しいアーティストにはオーソドックスな楽曲がよく似合うと、私も思います。’80年代のASKAさんといえば、ご自身の活躍はもちろんのこと、職業作家としても大活躍されていた時期ですよね。

野井:
そうですね。光GENJIさんは勿論、ちあきなおみさん「伝わりますか」、中森明菜さん「予感」、テレサ・テンさん「今でも」、高橋真梨子さん「都会の空」etc……。錚々たる方々に、楽曲提供されていて、しかもそれら全てが名曲です。

岩崎宏美さんは元々とても好きな歌い手さんだったんです。
ASKAさんとお仕事されていたのもそうですし、また僕は岩崎さんの代表曲の一つ「思秋期」を作曲した、三木たかし先生をとても尊敬しているので、お仕事させていただいたのは、とても感慨深かったです。

余談なのですが、岩崎さんの「歌になりたい」でギターを弾かれていたのは、ASKAさんのレコーディングにも参加されている、古川望さんという方でした。
僕は、この曲の4リズム(ドラム、ベース、ピアノ、ギター)のレコーディングを見学させていただきましたが、所々にASKAさんの楽曲で聴けるような、美味しいフレーズが出てくるんですね!
あくまでこれは岩崎さんに書かせていただいた、自分の仕事の中での話なので恐縮ですが、「ああ、コレだコレ!」と、本当に感動の連続でした。

s.e.i.k.o:
それは羨ましい!なかなかできない経験ですよね。
チャゲアス初期の「オーソドックスだけれど、出色なメロディ」の部分に影響を受けられ、磨き続けてこられたからこそのプレゼント、だったんですね。

野井:
そうかも知れないです。
そして、今まで「オーソドックスなスタイルの楽曲」という言葉を使い、お話してきましたが、チャゲアスの楽曲は「オーソドックス」と評されるスタイルであっても、決して単調で平凡なものではなく、メロディもコード進行も、非常に基本に忠実でありながら、一切の手抜きがありません

たとえば、コードがドミナントになる箇所も、Cメジャーでいうと、G7にしている箇所と、G7sus4 や F/G にしているところをしっかり使い分けたり、またコード進行の流れの中で、Am に行く時と A7 に行く時を使い分けたり……。

また、サビに入る直前と、サビの終わり方がやや似ている時に、その部分のメロディの展開をほんの少し変えることで、自然に聴こえるようにしたり……などとすごく細かくて、一聴するとどちらでもいいように思うけれど、そこを変えるだけでかなり印象が変わるような箇所を、少しでも良い曲に聴こえるようにするために、細部までしっかり作り込んでいる印象を受けます。

そう考えると、さっき「チャゲアスのような曲は全く作れない!」と言っちゃいましたが、ちょっとだけ撤回して、この路線であれば、なんとか作れます(笑)。

s.e.i.k.o:
やはりプロですね(笑)。私にはどこまで手が届くのかすら、わからない。

素人目線というのはいわば「ゼロか100」の発想で、「作れるのか、そうでないのか」という考えになりがちです。
それに対して、本当に細部を知っている方は「ここまでは作れる、だけどこの先は作れない」という言い方をする。そういう話が、信頼できるものだと感じているのですが。

野井:
うーん、どうなのでしょうね? チャゲアスの真似できない作風って、「ここまでは作れるけれど、この先は作れない」という感覚とは、僕の中では少し違って。

先ほども言いましたが、出来上がっているものを、分析できない、ということではないのです。
しかし、音楽は0から作ること、そしてそれが人を感動させる作品になることがとても重要であって、その0から作る部分で、「多分、ここはこうやればいいのかな?」みたいなポイントは、なんとなくは分かるのですが、じゃあ、自分が実際にそうやっても、全然、あの雰囲気は出せない、そういう不思議さが、チャゲアスの音楽には、あるように思います。

他の人なら、「こうやって作ればいいのかな」の延長で、100に到達しなくても、80くらいまではいけると思うのですが(笑)。でも、もうそのあたりは、「自分は自分の個性があるのだから」と、開き直っています(笑)。

s.e.i.k.o:
なるほど……理論が実践になる時の、マジックですね。

野井:
そうですね。大抵の場合は、ある程度までは再現できるのですが、チャゲアスはかなり難しいなと思います。

●ここがスゴい② 「バリエーションの豊かさと、統一感」

野井:
あと、もう一つ影響を受けている部分として、「一つにこだわらない」というところも、かなり影響を受けてきたと思います。

チャゲアスって、お二人が揃った時もソロの時でも、本当に何でもやりますよね。
テンポでいえば、バラードもミドルもアップテンポもあるし、ジャンルでいえば、フォークや演歌に近いものもあれば、歌謡曲、デジタル・ロック、シティ・ポップ、AOR、フュージョンに近い楽曲、R&B、ブラックコンテンポラリー、ロックetc……。やっていないのは、EDMくらいではないでしょうか?

また歌詞についても、例えば「SAY YES」と「HOTEL」のように、同じラブソングであっても「本当に同じ人間性の人が書いたのか⁉︎」と思うくらい、振り幅がありますよね。

s.e.i.k.o:
比べる楽曲が、極端すぎます(笑)。でもそれくらいの振り幅が魅力なんですよね。
それにしても、確かにチャゲアスやそれぞれソロのアルバムを聴いたとき、バリエーションが豊かすぎて戸惑うけれど、結局はまとまって聴けてしまう、という不思議な感覚がありますよね。

野井:
あれは、本当に不思議なことです。
デビュー曲の「ひとり咲き」と、その時その時の最新の楽曲を同じライブで、しかも同じメンバーでやったとしても、ちゃんと成立してしまう。
これらの多様なスタイルの音楽を一枚のアルバムに収めたり、一度のライブで同時にやってしまう……。

普通なら、こんなことをしたら、全然どっちつかずになってしまうと思いますが、この方たちは、一見好きなようにやっているように見えて、聴き終わった後、不思議なくらい「統一感」があって、「あ、これがCHAGE and ASKAの個性なんだ!」と、認めさせてしまうパワーがあります
しかも、どれも素晴らしい、聴いた人を感動させる楽曲です。

レベルの差はありますが、自分もそこに影響を受けているからなのか、作曲をする際、あまりジャンルやスタイルにこだわりなく曲を書いてきて、色んなアーティストに楽曲提供させていただいてきたと思います。
R&B、ロック、avexスタイル、ジャニーズ、秋元先生関連やその他アイドルグループ、歌謡曲、アニメ、ゲーム、K-POPなどなど……。

s.e.i.k.o:
野井さんの作られた音楽の多様さには、ちょっと触れただけでも驚かされます。

野井:
僕の場合は、作家としての統一感があるのかは疑問ですが(笑)。

s.e.i.k.o:
いえいえ、素晴らしいことだと思います。

野井:
ありがとうございます! そういえば少し前に、面白いことがありまして…。
僕がアレンジした楽曲のスタジオ作業で、トラックダウン(CDにするための、各楽器の最終的なバランス調整をする作業)に立ち会った時のことでした。そこで初めてアーティストの方にお会いしたのですが、

「野井さんって、黒いスーツでバリバリに決めている、すごく怖い方だったらどうしよう、と思っていたのですが、お会いして安心しました!」

と言われて、びっくりしました(笑)。その方は男性だったのですが。
おそらくその時はアーティストさんに、事前にR&Bやブラックコンテンポラリー系のデモを中心に聴いていただいていたので、そう思われていたのかもしれません。

でも別の場所では、アイドルの人、アニメの人、歌謡曲の人、ロックの人…なんて風に思われていたりします。でも、そう思われるのは、全く嫌いではありません(笑)。

作曲家の世界でも、長年やっていると、普通なら音楽傾向的に、ある程度は偏ったりするのですが……自分はあまり固まらないところがありまして、それが自分の個性なのかな、と思う時があります。
自分的には、「もっと個性を統一した方がいいのかな」と思うことも時々あるのですが、逆にその固まらないところに期待して下さり、頂く仕事も少なくなかったりします。

おそらく、チャゲアスの「一つにこだわらず、良い音楽をやる!」というスタンスに、少なからず影響を受けてきたからかもしれません。

s.e.i.k.o:
音楽を作るという細部についてはリスペクト、そしてスタンスには大いに影響を受けてらっしゃるということなんですね!
なんだか色々伺えて楽しいです。ありがとうございます。

野井:
こちらこそ、ありがとうございました!


<シリーズ#3に続く>

野井洋児さんの音楽に興味を持たれた方は、ぜひこちらを。
この春にサブスクリプションにて公開されたアルバム『みんなのうた』プロジェクト、そして過去のメジャーリリース作品のYoutubeリストです。
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『みんなのうた』プロジェクト → https://linkco.re/q7Y9038Z
メジャーリリース曲MVリスト → https://www.youtube.com/playlist?list=PLiqjsLSlY4qAy59PW4fa57AZw3b3Fro_P

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