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『光る君へ』の快感と違和感(1-9話感想)

最初に触れた平安時代は氷室冴子『なんて素敵にジャパネスク』、シロジです。
ガチめの有職故実&摂関政治を小学生のうちに叩き込まれました。

まひろの衣装が替わった9話が区切りだと感じたので、ふとここまでの感想など書いてみたくなりまして。完全ネタバレ注意。


門外漢なので

前提として、門外漢の感想です。
ドラマの専門家も歴史の専門家も多くの人がいらっしゃるので、そういう視点の感想や意見はそちらにおまかせします。
大河ドラマは数年に一度しかちゃんと観てません。一か月で離脱するとかもよくある。
ついでに、学教教育での「歴史」は中学校で止まっています。もう1192作ろう鎌倉幕府じゃないことは知っている程度。
国語の「古典」はあんまり得意じゃなくて、漢文の書き下しで点を稼いでいたなあとか。

あと、源氏物語読んだことないです…
恋愛モノってなんか興味なくて…ごめんね、まひろちゃん…

今回観ようと思った理由が
・日本的な服装の中で狩衣がいちばん好き
・好きな俳優が何人か出演予定(9話時点未登場)
・平安が舞台の小説を書いたことが2回ほどある
ていうくらいの浅さです。

たまに「私の好きな平安」の話が出てきますが、適宜スルーしてください。
明らかな誤りが見られましたら、優しく教えていただけると幸いです。
それじゃあ、がんがん光っていきますよー!

衣装が楽しい

衣装公開は、放映前の最初のお楽しみです。
服飾も色彩も、現代社会では苦手分野なのであまり興味もないのですが、見るのは素直に楽しい!
しかもドラマになることが少ない平安時代、戦国や江戸よりも「見たことない!」がたくさんあるはず。
そして狩衣がこんなに出てくるシチュエーション、他にありません。大河ドラマの主役たる武士は直垂だし、時代が下ると小袖になっちゃうから。
これが一年間地上波で供給されるのですか、ありがとうございます!!

今作、ベスト狩衣は安倍晴明です。
異論は認めない。
最初のビジュアル公開で三度見くらいしました。
何あの白と黒のクレイジー柄。陰陽の表現なのはわかる。でもそういう配色、ありなんだ…!
中世以降ではわりと認識があったのですが、庶民のツギハギではなく貴族が、しかもえらい人の家に呼ばれて着ていく服として、すごいセレクトじゃない…? この服を普段着として着こなしてる晴明、絶対ヤバいヤツじゃない…?
そしてインナーと目元の紅! オシャレか!!
煌びやかな貴族の皆さまと並んでも、インパクト抜群です。
座ってる時と立ってる時、引きと寄り、右から見るか左から見るかで、晴明の印象が全然違う。思った以上に、画面をコントロールできちゃうキャラでした。

クレイジー柄の狩衣、これから平安方面の創作へ多大なる影響を与える気がします。

続いて地味に推したい、検非違使(放免)。
衣に赤いラインが入ってるの。これも見たことなくてびっくり。
この時代に制服なんてものはもちろんないのだけど、そもそも検非違使自体がそこまでちゃんとした組織でもないのだけど、あのラインがあることによって同じ組織、まあいわば公権力みたいな印象を出してるわけですよ。すごいアイデア。
庶民が取り締まられてるな、って見た目で理解できましたからね。

あとやっぱり姫君たちの十二単! 色が綺麗でステキ……となります。
本人のキャラクターやシチュエーション、季節なんかも考慮されて色彩設計されているのでしょう、詳しくないけど。
内裏はとくに豪華で、女官たちが出てくると「裳(も)!!」と叫ぶくらいには楽しんでいます。
裳着も五節の舞姫も美しかった。まひろ、がんばった。

布地の違いや柄も、つい見入ってしまいます。
身分が高い人たちは、それだけ手間のかかった服を着られるということなので、生地も色も柄も凝っていて美しい。内裏ではみんな同じ色になっちゃうけど、右大臣左大臣のお宅はとても華やかで、目が忙しいです。
まひろは道長に比べて粗めの布地で、他の姫より色もぺったりしてて、そりゃあ下級貴族だものな、でも外を駆けまわっていても許される感じするな、って思います。

「おっ」と思ったのは、漢詩の会の帰りに、公任たちが何か綺麗な布(衣?)を肩に掛けていたこと。たぶん道隆から漢詩のご褒美にもらったんだろうなと。
気づいても気づかなくてもいいハイコンテクストな情報を、何の説明もなくさらっと入れてくるのが大河ドラマの余裕ですよ。

ドラマのありがたい点は、とにかく人が実際に着て動いているということです。
狩衣や直垂の袖についてる紐、絞って動きやすくするという機能は知識として知っていましたが、私がその瞬間を初めて目撃したのは、『鎌倉殿の13人』でした。意外に最近。
小四郎と父上が、畑仕事するぞって言って袖の紐を引っぱり、首の後ろに回して結ぶ。襷が元から服についてる状態、というのが動きで理解できた…ことに感動しました。
八田殿なんかはずっと括ってたので、襷だと思ってた視聴者もいるんじゃないかな。
今年も、道長がポロの試合とか土掘るときとかに括ってましたね。アレを狩衣で見られたのが感無量です。

こりゃあ画面眺めてるだけでも楽しい一年になりそうだぜ!(袖の紐を絞りながら)

陰陽師が楽しい

一年間のドラマの導入、最初のアバンが「陰陽寮で星を見る安倍晴明」なんですよ。
それだけで期待度が上がってしまいました。

全然関係ないですが、枕草子に「ちゃんとした陰陽師にお祓いしてもらうと満足」みたいなこと書いてませんでしたっけ。「僧侶はイケメンがいい」とかなのに。重要度なのかなって。
そういえばファーストサマーウイカさんすごいですよね。「本物の清少納言だ!」って視聴者の9割くらいに思わせましたよね。誰も会ったことないのに。
あと「ユースケ・サンタマリア」「ファーストサマーウイカ」が大河ドラマのクレジットに縦書きで入ってるの、なんかいい。
大河ドラマだからって気負いも物怖じもしてない名乗りでいい。名乗り?

ユースケ・サンタマリアさんの「大河でもかまわず暴れてやろうと思っていそうな顔をしているけど色々あっておとなしくしている」感が好きで(個人の感想です)
麒麟がくるの時も、榎木孝明さんが隣にいるからちゃんとしてる、みたいな感じしたもん(個人の感想です)

そんな個人的に気になっている俳優が演じる、安倍晴明(あべのはるあきら)。音読みは出家した人か後世伝承での呼び方だからでしょうか、ドラマ内では「はるあきら」。
皆が寝静まっている(もしくはお楽しみ中の)真夜中に星を読み、昼間に呼び出すと面倒そうにやってきて、でもちゃんと呪詛はしてくれる。
位は高くないけど、自身の安売りはしない。そして自分が必要な存在だと確信している。
常に貴族たちを冷静に値踏みし、彼がこの都にとって最善と考えるルートを導き出す……やだ、平安京のブレーンじゃないですか。帝より大臣関白より重要人物じゃないですか。
決めシーンの指パチッで「くぅ〜っ!!」って叫んじゃいましたからねテレビの前で。どう観てもハッタリだけど、どう見ても異能。すっごいかっこいい何アレ。
こういうのがずっと見たかった。

ここは個人的な感傷なので、次の段落まで飛ばしてくださってもけっこうです。
私はいちおうアマチュア字書きでして、まだ小説の書き方がよくわからない頃に、初めてちゃんと書いた小説が「平安時代の陰陽師の話」でした。00年代、夢枕獏『陰陽師』で定着した後でしょうね。その頃にはマンガやアニメなどでの陰陽師ネタも定番となっていました。
普通にヘタクソだった自覚があるので、題名もあらすじも忘れたし読み返そうとも思いませんが…
設定としては、「特殊な外見を持った青年が、式神として」「当時の技術やトリックで貴族たちに呪いや占いを信じ込ませている陰陽師に」「影の存在として仕え、呪詛や守護と称して殺傷や護衛をしている」というものでした。
ご丁寧に、陰陽師の名前も「はる○○」にしていました笑
「特殊な外見や技能(盗賊・芸人・屠殺など)を持った人々が、橋の下で待機して陰陽師の指令を待つ」っていうのをやりたくて…相当ストーリーで引っぱっていかなければ、地味すぎて読まれないやつです。うん、実際そうだった。題材選びからヘタクソだった。

つまりですね、私が見たかった(自分では作れなかった)「安倍晴明」が、20年越しに大河ドラマで実現したわけです。いや、普通にすごく嬉しい。
そうよ、空飛ぶ陰陽師やビーム出す陰陽師も好きだけど、こういう「本当はこうだったかも」な宮仕えの陰陽師が見たかったんですよ。
サンタマリア晴明に仕えるDAIKI須麻流、視聴者の第一印象は間違いなく「式神だ!」でしたよね。実際に周囲へ与える印象をも武器として、当時の陰陽師は活躍してたんじゃないか、と思わせるキャスティングです。

さらに言うなら、散楽のメンバーがまさに「式神」の動きで、思わぬオマケまでもらっちゃったな…ってなっています。
伝統芸能も見惚れるけど、アクロバティック芸能パートも大河ならでは!って感じで好きなので。場面だけの登場かと思ったら、意外に話の芯へ食い込んできてびっくり。
直秀が神様役の時に狐だったのは、晴明の「狐の子」ネタですよね。このドラマの晴明がリアルタイムで狐の子と噂されているわけではなく、オマージュ的な意味合いとして。

超能力を使わない安倍晴明、これから平安方面の創作へ多大なる影響を与える気がします。

もうこのドラマの晴明だけで平安方面の創作に革命が起きてるじゃないですか。
いろんな男(おのこ)が光っておりますが、私の中ではダントツで光っております。しかも、一年出ることほぼ確定ですからね。ありがたい。
君、光ってるよー。

政治劇が楽しい

平安といえば、派手な合戦もないため映像的に心配される時代。
どうするのかと思ったら、正面から政治で殴り合うようです。地味になりそうなところを、呪詛などのわくわく要素を入れて盛り上げてくれます。
いいよいいよー、みんな光ってるー。

先述のとおり源氏物語は未履修なのですけれど、小学生の頃に氷室冴子先生から「帝をトップとした平安貴族の関係性」というものをふんわり学んでおりまして。
桃の節句の雛壇飾りを見ながら、右大臣と左大臣の関係に思いを馳せたりしたものですが。

おもしろいのが、野心ゴリゴリの右大臣に対して、左大臣はのほほんと優雅な日々を楽しんでいる子煩悩なお父さんという図式。最初から偉いので、とくに権力を拡大しようとか思ってない。簡単には脅かされないほどの立場ってことですからね
夜盗に入られたって、きっと「たまたま屋敷にあったもの」が盗られたくらいのもんで。あちこちから自動的に送られてくるもんね。そりゃ人的被害がなければ倫子さまも笑って済ませるよね。
そんな牧歌的な人たちが、強引に巻き込まれていくのもまた政治。
詮子姉さま、哀れな女御として泣き暮らすのかと思っていたら、絶望で覚醒して誰よりも父上に近い存在になっていくの、もうスターウォーズとかの世界観ですよ。

そしてお声の小さい関白さま。
関白なのに、帝に声が届かないという立ち位置なんでしょうね。右大臣のほうが強いし。
どうも強そうには見えないんですが、とにかく直衣が様になりすぎています。本当に貴族然とした佇まいで、いつも「見栄えがいい…」って呟きながら観ています。関白さまの出番は毎回ボーナスタイムです。
これから右大臣vs左大臣のあいだで、どんどん権力を失っていかれるのでしょうが、それもまたお美しいと思いますのでハラハラしつつ見守っていきたいです。
ここだけやたら敬語使っちゃう。光りすぎておられるので。

そういえば、花山帝の寵愛を受けていた忯子さま。
井上咲楽さんを直近で見てたのがEテレ『漂流兄妹』だったので、「無人島から脱出したと思ったら平安時代にタイムスリップしてSッ気強めの帝に溺愛されています」っていうタイトルが浮かんでしまってね…バッドエンドだったけどね…

権力闘争とは違うけど、「日記には書かぬ!」の藤原実資も、やられたー!っていう造形ですよね。笑えるくらい黒いのに、内裏にこういう人いたよね絶対、っていう変な説得力がある。見たことないのに。
道長の友達の公任とかもアレだ、すごい平安貴族っぽい。大学生っぽいとか同期入社っぽいとかの「っぽい」。
君たちも光ってるよー。

個人的な違和感

何しろ源氏物語を知らないもので、差し挟まれるモチーフの読み解きや、今の場面はあの登場人物や出来事を示唆している、などは全くわからないのですが…

1話から、物語として把握できないことはとくになかったと思います。
ただ、9話だけが本筋を理解できなかった。「鳥辺野へ連れていかれる」の意味はわかっても、なぜ流罪ではなく死罪になったのか、そしてなぜ道長が「自分のせいだ」と嘆いたのか、そこが読み取れなかった。
こういう「わからなさ」は、大河ドラマではあまりないことなので動揺してしまって…
展開が良くなかったというのではなく、ものすごくハイコンテクストな話なのかもしれないぞ、と警戒心を高めた回とでもいうのでしょうか。

有識者の方々の感想を拝見すると、直秀たちは「本来は鞭打ち程度で済まされるはずが、道長が介入したことによって(検非違使側で様々な思惑がはたらき)始末されることになった」ということのようです。道長が変に気を利かせなければ、彼らはちょっと痛めつけられるだけで開放されたかもしれない、という。

言われれば納得はできるんですが、自分はなんか唐突な感じがしてしまって。
演出的にも殺害場面は避けられていて、直秀の死に顔があまりにもきれいで(遺体が損傷していなくて)、今ひとつ実感がなかった。あの身体能力の高い7人が、たった2人の検非違使にやられるわけがないという現実的な感覚もあった。

それで、以前スルーした小さな違和感を思い出しました。
まひろが散楽の練習風景を見て「人じゃないみたい」と言ったのに対して、直秀が「元から人扱いされていない俺たちに言われても」という返しをした時です。
んー、そうだった??

貴族社会を風刺している散楽(芸人)が、疎まれ蔑まれる立場というのは前提知識として。
でも散楽メンバーは、基本的に昼間の明るい場面にしか出てこない。まひろが出入りしてても何も言われない程度には素行がいい連中です。
裏の顔である盗賊稼業も、どちらかといえば貴族側の「やーね、怖いわね」という目線で軽く語られていました。
そりゃあ貴族は横暴だし権力争いはバカバカしいけど、直秀たちが貴族を憎む理由や、彼らが虐げられる場面がそこまで明示的ではなかったので、「元から人扱いされていない」が急に説明的に聞こえてしまって。

暴力装置としての検非違使も、そんなに強調されてない。道長もまひろも誤認逮捕されながら無傷でスルッと出てくるし。
このドラマでの「目に見える暴力」は、現時点で道兼がほぼ一身に引き受けている状態です。加害も被害も。さすが藤原家の闇担当。
道兼並みの暴力を、直秀でなくとも散楽メンバーが受けていたら、もっと彼らを心配してたかも。

直秀たちの死を、まひろ・道長と同じ気持ちで受け入れるには、「庶民は貴族たちの華やかな生活の裏で苦しんでいる」という文脈が前提とされていたんですが。
私はそこ共有できてなかった…
たぶんモデルとなった人物の知識とか、明るい散楽の場面に隠された差別意識や庶民の悲哀とか、そういうのを読み取れていなかった。だからいきなり鳥辺野行きなんて思ってもみなかった。
直秀が殺される場面が(まひろの母上くらい)わかりやすければ、まひろはまた大切な人を藤原家に奪われたんだな、と思えたかも。

いや、痛いのも怖いのも辛いのもダメなんで、徹底的にやってほしいっていうんじゃないです。
むしろNHK地上波を自分のレイティングにしている部分があって、だから逆に安心して見られるというのもある。安全圏から楽しみたいタイプですみません。
藤原道長という貴族社会の頂点に立つ者を中心に描くなら、確かに庶民の描写にそんな割けないよね、とは思っています。

なんだかんだと、アクションもドラマも楽しませていただきました。
直秀とその仲間たち、めちゃくちゃ光ってたよー。

まだ序盤ですよ

いろいろ盛り上がってしまいましたが、まだ9話です。
直秀との壮絶な別れを経て、まひろと道長は唯一無二の関係になりました。
まだ、まひろは何者でもありません。道長も父兄姉が元気に暗躍してて、出番はまだまだ先のようです。

しかし、こちらも恋愛モノって興味ないな~とか言ってる場合ではなくなりました。本気で観ないと置いていかれるとわかったので。
源氏物語だけでなく紫式部についても、全くというほど知識がなくて…これからどうなるのか、いつ源氏物語を書くのかも存じ上げません。あえて調べずに、驚きながらドラマを追いたい勢です。

噂によると、まひろは越前に行くらしいですが。
弟の真宙…じゃなくて惟規がどういう立ち位置になるのかも気になります。
弟、癒しポイントとして大好きなので、ずっとダメな弟でいてほしい。政治に巻き込まれないでほしい。願わくば、道長にも弟のようにかわいがられてほしい。

とりあえず私は晴明から目を離さず、好きな俳優の出番に備えておかねば…
一条帝と藤原頼通が出た瞬間に「いいよいいよ、光ってるよー!」と叫ぶ準備をしておかねば…

忙しい一年になりそうだぜ!(裾の紐も絞りながら)

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