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【創作小説】『よすが雪月風花』本文サンプル1【GL】

充実しているはずの毎日にわずかな閉塞感を覚えはじめたころ、彼女は不意に現れた。

<基本情報>


座敷わらし・河童・雪女など、東北の妖怪をモチーフにした異界交流譚(BL/GL)です。主に岩手と東京を行ったり来たりします。
シリーズ再録『よすが雪月風花』より、百合エピソードを抜粋し以下に掲載しています。複数の男男、女女、男女の組み合わせが登場します。

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約束

 パソコンの横で携帯電話が鳴っている。
 ちらと見て相手が実家の母だとわかると、無視して画面に目を戻した。
「わかってますよ……」
 桜舘眞樹は書きかけの記事を睨みながら呟く。
 急ぎどころか用すらないのはわかっていた。しいて言えば世間話のネタができたくらいか。眞樹の同級生が地元に戻って結婚したこと。実家の隣に眞樹よりも若い夫婦が子連れで引っ越してきたこと。実家住まいの妹からだいたい聞いていた。
 世間話だけならつき合ってもかまわないが、そのあとに必ずつづく「それで、あんたはどうなの」という流れが鬱陶しくて、電話に出る気がなくなる。今まではそこまでうるさくなかったのに、今年に入ってからは露骨に攻撃が増えた。帰省の頻度が減ったのもそのせいだ。
 三十の女が独り身でいることがそんなに異常なのか、と切り返せば、きっと真顔でそのとおりだと言われるのだろう。
 夜遅くまで職場に残って仕事をしているのは、区切りがついていないだけではない。仕事中だから私用の電話に出ないという免罪符を自分に与えていることは自覚していた。
 再び電話が鳴った。今度はデスクの電話で、表示されたのは上司の携帯電話。帰宅しているはずなのに連絡があるということは、まちがいなく急用だ。
「お疲れさまです!」
 渋い低音が申し訳なさそうに告げてきたのは、明日の取材に一人で行ってほしいという話だった。ほんとうは若手の編集部員と二人で向かう予定だったのだが、身内に不幸があって今夜中に地元へ戻らなければならないと連絡があったらしい。
「それはかまいませんけど……はい?」
 言いにくいんだが、と前置きされた話を聞き、上司の声がいつもより弱々しい理由を理解する。
 チーム最年長が妊娠のため体調不良で……というのはここ数ヶ月ほど頻繁にあることだったから、とくに驚かない。皆で彼女のフォローをすることを最初に決めてなんとかやってきた。だがやはり体調が思わしくなく、初産ということもあるから、産休に入る日を早めることになったという。
 それも、近ごろの彼女を見ているとやむをえないとは思う。しかし、同タイミングで若手のほうが結婚のために辞めなければならないかもしれない、というのはさすがに想定外だった。本人は仕事をつづけたいらしいが、今回の葬式で家庭の事情が変わってくる可能性が出てきたようだ。
「それじゃ……編集長とわたしだけってことですか」
 地方都市の地元密着型広告代理店、の中にあるさらに小さな雑誌編集部。自分たちが住んでいる不来方市周辺エリアの魅力を地域の人々に向けて伝えるというコンセプトで、ターゲットはニッチながら全国区の知名度も低くはない。
 壮年の編集長は広告代理店の代表も兼任で、今は地元の新聞社やデザイン事務所から転職してきた女性社員三名で好き勝手にやらせてもらっていた。はじめこそ市内の本屋やギャラリーを巡って自分たちで営業していたが、今は他県の書店にも置かれ、隣県のコミュニティ雑誌と合同企画を立ち上げる案まで出ている。
 上り調子だからこそ、ここにきての人手不足はより深刻だ。眞樹は電話を切ってからデスクに突っ伏した。
「べつにいいけどさぁ……」
 出産も結婚も手放しで祝う気はある。比べて羨んだり僻んだりする気も起きない。それでも、自分ではどうにもならない不自由さにじわじわと包囲されていくような、漠然とした不安がこのところ眞樹を憂鬱にさせていた。
 今度はメッセージ着信音。
 数少ない男友達からだった。東京暮らしだが、帰省のたびに眞樹にだけ声をかけてくる。
 少し考えて、眞樹は彼に返信した。


「いつできたんですか、この店」
 メニューを開きながら、柳圭悟は薄暗い店内を見渡している。
 長身に眼鏡の神経質そうな男は、高校時代の後輩だった。三十になった今でもつき合いがつづいている同級生は数えるほどしかいないのに、一学年下の彼とは何年会わなくてもつながりが切れない。
「開店は二年くらい前かな。何号か前の取材で知り合った人でね、関東で販売の仕事やってたんだけど、こっちの酒に惚れ込んでいつか店を開きたかったんだって」
「へえ、夢が叶ったってことですね……」
 柳は重い前髪のあいだから、こちらに背を向けている店主にちらりと目を向けた。言葉とは裏腹に、その表情はなにも語っていない。よかったとも、羨ましいとも思ってはいないようだった。
 注文したドリンクが来るまでのあいだ、盆暮れでもないのに柳がここにいる経緯を尋ねる。
 前に帰省したのは二年前だったが、今度は少し違うらしい。体調を崩して会社を辞め、失意のまま実家に戻ったと聞いたところで酒がきた。
「では柳の都落ちに乾杯」
「ひどいですよ……」
 苦笑しながら猪口をかたむけた柳は、もう一口飲んでから笑みを浮かべた。
「なんか……久しぶりに美味しいお酒飲みました」
 口数が多いわけでもなく、一般的にはいっしょにいて楽しいタイプではないだろうが、酒の美味さを共有できるというのは大きい。
 ほっとした顔で猪口を覗き込んでいる後輩を眺め、都会での苦労を思う。眞樹だって毎日忙しいし、徹夜がつづくこともある。それでも大手広告出版社で心身をすり減らして働いていた柳ほどではないだろう。
 なにより、就職してからの柳が楽しそうだったことはない。もともと感情を露わにする性格でもないのだが、たまに聞く仕事の話は気が重いといった様子で、単純に哀れだった。
 だからその提案は、利己的なばかりではなくて彼を助けたいという気持ちも含んでいたと思う。
「あのさ、高校んときの約束……覚えてる?」
「約束……」
 柳は怪訝そうに眉を寄せた。
「ほらアレ、三十過ぎて二人ともだれともつき合ってなかったら」
「ああ……偽装結婚しましょうってやつですか」
 二人は顔を見合わせ、それから同じタイミングで手元の酒に目を落とした。
 口に出してみると、ずいぶんふざけた、くだらない内容に聞こえる。むりもない、まだ十代だったころの他愛もない思いつきだ。あのころは、三十代などずっと先だと思っていた。
 しかし実際その歳になってみると、その思いつきがにわかにリアリティを持ちはじめる。
「親とかの結婚しろ攻撃がうるさくて、最近ほとんど実家帰ってないのよ。でもこっちでも適齢期がどうの言われてさ。合コン断るのも疲れてきて……」
 眞樹の実家は車で三十分ほどの隣町だが、仕事を口実に寄りつかないようにしている。同級生の子供がもう小学生だと聞こうものなら、母はヒステリックにうちはまだかと騒ぎ立てるから。
 だが市内には眞樹と同じ町から出てきている友人知人も少なくない。狭くはないが人口もそう多くない地方都市では、人が集まるところへ行けば必ず知った顔に遭遇する。自然と結婚や出産の話になってしまうこともよくある。
 自分は結婚するつもりなどないし、たとえ好きな相手がいたとしてもできないのだと、何度大声で叫びたくなったかわからない。
 柳もそうなのだろうと思っていた。
 だが彼はうつむいたまま刺身を口に運びながら、もそもそと答える。
「向こうじゃ、何歳だろうと独身ってことであれこれ言われたりとかないですから。ぼくは、そういうの必要だと思ったことないです」
「ふーん……」
「あと、ゲイでもそこまで肩身狭くないっていうか……わりと、ほっといてもらえるんで」
「そう……なんだ……」
 遠回しな拒絶を受けて、思っていたよりもショックだった自分になにより驚いた。
 同時に感じたのは、柳はもうこの土地の人間ではないということ。今だけはここに佇んでいるけれど、またそのうち出ていくのだろう。
「ほっといてくれるのは、いいね……」
 学年も性別も見ている方向も違う二人が、あのとき部室で互いを仲間だと、自分の秘密を共有できる唯一の相手だと認識した。不自然な仲の良さに恋人同士と噂されたりもしたけれど、事実を隠したい二人にとっては好都合だった。
 でもそれだけではもう、つながっていられる歳でもないのかもしれない。


梅の香

 その日は、江戸時代に建てられた古民家の取材。隣の白鹿市にあり、県の重要文化財にも指定されている。
 車で三時間ほど、山あいを走りつづけて辿りついたのは、立派な門構えの屋敷だった。
「うはあ……バカみたい……」
 山百合が顔を覗かせる生垣の向こうに、今の家なら三階か四階建てにもなろうかという巨大な茅葺屋根がそびえている。必要があるのかと思うほど「バカみたい」に大きい。今まで取材などで見てきた古民家とは縮尺がちがっていた。
 たしかにこの土地いちばんの有力者が住んでいたのだと説明なしで実感する。
 往時は使用人も含めて何十人も住んでいたらしいが、今は直系の子孫である当主と、義理の娘が二人きりで暮らしている。当主はこの地方に伝わる民話の語り部でもあり、不来方市と白鹿市のつながりを実際の歴史と絡めて話を聞く予定になっていた。
 家の敷居を跨いだとき、わずかに梅の香りがした。
 季節でもないのにと怪訝に思ってつい見まわしたが、芳香剤も見当たらない。
 はじめに出てきたのは、眞樹の母親と同じくらいの女性だった。当主が支度を済ませて出てくるまで客間で待ってほしいと言われたので、では先に外の写真を撮ってもよいかと尋ねた。ときどき一般公開もしているから、撮影は自由だという。
 縁側から庭に下りると、そこはちょっとした運動場だった。昔は馬や牛もいたというし、これでも広すぎるということはなかったのだろう。
 その庭の真ん中に立ち、屋敷を見上げる。
 また梅の香だ。
「いらっしゃい」
「うわっ」
 いつのまに現れたのか、すぐ傍らに若い女性が立っていた。
 眞樹より少し年下くらいだろうか。目を惹く美人というわけではないが、愛嬌があって人なつっこい顔立ちをしている。
 障害物もない庭の中央に立っていたはずなのに、どこから出てきて近づいたのか、まるで気づかなかった。
「……この家の方ですか」
 彼女は首をすくめて笑った。
「ずっとはいないけど。……小梅が中を案内してあげようか」
 口ぶりからして、家を離れている娘か近い親戚か。服装もこんな山奥に住んでいるにしては都会的に見える。なれなれしくも思える距離感に、このあたりの謙虚な土地柄とはちがう印象を受けた。
「小梅さんですね。ありがとうございます」
 頭を下げかけたところで、笑顔の彼女から手をとられる。
「こっち来て、厩と家がつながってるところ見せてあげる!」
「……………」
 握られた手の感触に、心拍数が上がるのを感じた。久しぶりすぎて、その感覚がどういうことかすぐには思い出せなかったくらいだったが。
「菖蒲野の生まれだね」
 今は使われていない厩でどうやって馬を飼っていたかを、まるで見てきたかのように説明する彼女が、ふと眞樹に言った。
「わかるんですか」
 菖蒲野は白鹿市から見ると、不来方市を挟んで反対側にある。今まで訛りがあると言われたことはないが、他の土地からは意外にわかるものなのかもしれない。
「でも菖蒲野って、合併前の古い名前ですよ。お若いのによくご存じですね」
 旧菖蒲野村は、眞樹が生まれる少し前、不来方市に吸収合併された。今では地元の人間くらいしか「菖蒲野」という地名は口にしない。
「うん、まだそっちのほうが馴染みあるしね」
 話の内容もそこそこに、笑いかけてきた顔につい見入ってしまった。
「桜舘さん?」
 戸口から声をかけられ、はっとふり返る。あまり愉快そうでない顔で、先ほど応対してくれた女性がこちらを見ていた。勝手に屋敷の中を見て回っていると思われたらしい。
「あの、こちらの娘さんに案内していただいて……」
 言いながら小梅のほうを見たが、彼女の姿はない。それらしい出入り口も見当たらないのに、現れたときと同じようにいなくなってしまった。
「娘?」
 相手の顔つきがいよいよ険しくなる。
「うちは息子だけですが、みんな外に出ております。今はわたしと母の二人暮らしで」
「ではご親戚でしょうか、小梅さんとおっしゃる……」
 だがそんな名前の者はいないという。眞樹は混乱してきた。このままでは取材相手への心証も悪くなってしまう。ここはとにかく謝罪して……。
「久しぶりに出たねえ」
 座敷のほうから、杖をついた老婆が出てきた。真っ白な髪と腰が曲がって子供のように小さな体は、まさに民話の登場人物だ。
「まさか、お義母さん」
 眞樹は二人のやりとりを呆然と聞いていた。つまり彼女は。
「座敷わらし……?」
 客間で改めて取材をしながらも、自分がなにを聞きにきたのかわからなくなってきた。
 当主の老婆は、慣れた口調で淀みなく語る。
「このあたりには不思議な話がありましてね。子供たちが遊んでいると、いつのまにか一人増えているというんです。と思えば家の中で遊んでいたり……」
 その話なら知っている。怪談すれすれの昔話だ。眞樹が出会ったのは子供ではなく成人女性だったが。
「そういう雰囲気では……」
 どちらかといえば、キャンパスではしゃいでいる女子大生といった雰囲気か。着物姿ならまだしも、今年流行りのフレアスカートで髪の色も明るい茶色だった。
「子供とは限らないようですよ」
 男女の別もなく、服装もその時々で違う。だがそれらは全て同じ存在なのだと、老婆は語った。彼女も幼かったころには、この屋敷のあちこちでその気配を感じられたという。むしろこれだけ古くて大きな家にいないほうがおかしいのだと。
「あの……怖くはないんですか」
 老婆ではなく、娘のほうに訊いてみる。嫁だというから、外から入ってきた人間はまた感覚がちがうだろう。彼女は信じているのかいないのか、笑いながら答えてくれた。
「実際会ってみたらどうかはわかりませんけどねえ。怖いって話は聞きませんから、ほんとうにいるなら挨拶くらいはしてほしいとは思いますよ」
 たしかに怖くはなかった。ただそれは、まさか人間ではない可能性があるなんて思ってもみなかったからで。
「でも、お客さまの前に現れるなんてあまり聞きませんねえ、お義母さん」
「うちのわらしがあなたを気に入ったんなら、わたしらも歓迎しないわけにはね」
 そんな意味不明な理由で、大量の野菜と山菜を土産にもらった。


 後部座席に土産を積み込んでから、運転席に戻ろうとしてぎょっとした。
 助手席に、小梅が座っている。
「ちょっと……なんで……」
「早く出ないと日が暮れちゃうよ」
 眞樹に笑いかけた彼女は、ふと気づいたように口を開けた。
「あっ、シートベルトね。ごめんごめん」
「そうじゃなくて……」
 きっちりシートベルトを締めて車の発進を待っている座敷わらしを前に、眞樹は思わず今出てきた屋敷を見上げる。
「あなた、この家離れちゃいけないんでしょ!?」
 座敷わらしが出ていった家は、火事になったり経済的にたちゆかなくなったり家の者が大怪我をしたりと、大きな不幸が降りかかると言われている。もしこの子がそうなのだとしたら。
「小梅、自分で座敷わらしだなんて言ったことないよ」
「え……?」
 小梅と名乗る彼女は、退屈そうに肩をすくめた。
「人間が勝手にそう呼んでるだけ」
「人間って……」
 言葉に詰まる眞樹を見て悪戯っぽく微笑み、小梅はこちらへ身を乗り出してきた。
「ほんとうはね……」
 愛嬌のある顔が近づいてきたかと思うと、唇を重ねられる。
 ふわりと梅の香りがした。


 眞樹は目を開けた。
「え……!?」
 そこは自宅マンションの駐車場だった。とっさに時計を見たが、しっかり三時間経っている。外は薄暗くなっていて、走行距離もエンプティに近いガソリンタンクも眞樹がこの車を運転して帰ってきたことを物語っていた。
「はーいっ、おつかれさまぁ!」
 助手席の座敷わらしが元気に叫んで、シートベルトを外した。
「あなた……」
「帰りは楽だったでしょ?」
 どういうことなのか。眞樹はハンドルを握ったまま混乱する頭を整理しようとする。
 今日のことは全て夢で、もしかしたら自分はあの家に行っていないのではないか。そう思ったが、後部座席の野菜一箱は現実のものとしてそこにある。隣の座敷わらしも。
 納得できないまま車を降りると、小梅も当然の顔で降りてきて眞樹の隣に並んだ。
「お野菜食べきれるかわかんないね。そろそろ涼しくなってきたから、鍋もいいよねえ。あ、羊ある? ジンギスカンやろうよ……」
 エレベーターの前で、彼女に向きなおる。
「あの、なんでついてくるの?」
「なんでダメなの?」
 ほんとうにわからない、という顔で無邪気に訊き返されて、それ以上はなにも言えなくなってしまった。
 結局、彼女を連れて部屋まで帰るはめになる。それでも小梅がサンダルを脱ごうとしたときには、さすがに不安になった。
「ねえ……ほんとうにだいじょうぶなんでしょうね。お二人ともご高齢だし、建物は重文なんだよ? もし火事になったりしたら……」
「じゅーぶんね、うん知ってる! でも指定されたの最近だしさぁ」
 ちっとも重要性を認識していない口調で答えた小梅は、勝手に部屋へ入っていって座り込んだ。そしてテレビの電源を入れながら、ついでのようにつけ加える。
「だいじょうぶ、小梅はこっちにもあっちにもいるから」
 意味がわからないので少しもだいじょうぶな気がしない。
「あなたがいっぱいいるってこと?」
「まさか! 小梅は世界に一人、オンリーワンだよ」
 オンリーワンの座敷わらしがリモコンでザッピングしている姿を眺めながら、眞樹はいちばん気になっていたことを尋ねる。
「ねえ、どうしてわたしのところに来たの?」
 小梅は答えず、はじめに現れたときと同じ笑顔で眞樹を見つめた。


 アラームも鳴っていないのに目を覚ます。
 夜が明けたばかりのようだ。
 下着姿でベッドから出て肌寒さに震え、ベランダのガラス戸がわずかに開いているのに気づく。開けたはずはないのに、と思いながら閉めた。
 部屋にはだれもいない。
「……小梅」
 呼びかけてみたが、返事はなかった。
 床に脱ぎ捨てた服を拾い集めて洗濯機に放り込む。洗濯機が回る音、テレビの情報番組。日常の音を聞きながら、パソコンを開いて仕事のメールを確認する。昨日の時点よりもやるべき仕事が増えていた。
 彼女の存在は夢ではなかったと思うけれど、夜が明けてみれば昨日と同じで一人きり。仕事が厳しい現状も憂鬱な気分も変わっていない。
「やっぱり座敷わらしじゃなかったなあ……」
 家に居ついて幸せを呼び入れてくれる存在のはず。出ていってしまった彼女は、本人が言うとおり別のなにかなのだろう。
 部屋には、かすかに季節外れの梅が香っていた。

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