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【掌編】フリーペーパー


「これ、無料で配っているんですか」

訊ねると、売り子はにこやかな笑みで「はい」と頷いた。
「何のために?」
「宣伝です」
「いや、でもこれ……」机上に置かれた紙を一枚取り上げ、まじまじと見つめる。「白紙、ですよね」
「白紙です」
当然、とでも言うように売り子は頷く。

どういうことだ。白紙が、宣伝?

「なんの宣伝ですか」
「私はあなたにとって有益である、ということの宣伝です」
「よくわかりませんが」
「要不要がわからない情報が書かれた紙より、ただの白い紙の方が、あなたのお役に立てる可能性は高いでしょう」

一理ある気もするが、それではフリーペーパーの用を為さないだろう。いや、用を為さないものを配っているということが、この場合の宣伝なのか。そんな宣伝が、宣伝足り得るのか。

「あなた、どんな活動をしているんですか」

不可思議な思いを堪え切れず、訊ねる。すると売り子はにやりと笑って、私に言った。

「ほらね。興味を持っていただけた」

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この作品は、第33回・第34回文学フリマ東京で配布したフリーペーパーに掲載したものです。

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