今野明広

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吉澤、異常なし

おれは女の指の周りでブンブンと音を立てて回っていた。女は空腹を感じながらおれを回して、同じ工場のラインで働く男の後ろを通った。女の空腹感は、もとから空腹だった男に上乗せされた。男はコーラのボトルと中身をチェックしている目線を自分の腹に落とし、突然の飢餓感を不思議に思った。女は工場の喫煙室に入り、回り続けるおれをテーブルに置いた。女はメビウスの5ミリパープルに火をつけると、コーラの品質管理をしていた男が入ってきた。男がテーブルの上のおれに近づくと、男の飢餓感が女に上乗せされ、男

    • わたしの神様とシロクマと吉澤ひとみさんと小説を書くことと大森望賞について

      わたしは小説を書くのが恐かったのだ。 小学生の時は小説なんてその気になれば、いくらでも書けると思っているだけで、実際には図書室で世界文学全集の文豪たちの棚を回ってはケチをつけていた。レフ・ニコラーエヴィッチ トルストイがいかに正しくないか、彼がいかに世界の理を手にしようとしていないのかを読書感想文に書くような嫌な子どもだった。 それがあるとき、川上弘美さんの「神様」を読んで、これは完璧な小説だと思った。まさしく、「カ・ン・ペ・キ」という言葉が胸をつきあげて破れ辺り一面に溢れた

      • SF創作講座第12回提出作品

        ここからは全て主任講師の「第4回ゲンロンSF新人賞 最終候補作品」発表後の記述です。 SF創作講座最終実作提出の残り、五つの感想です。と、そのあとに、SF創作講座全般のことを書くのではないかと思われます。 8.宿禰「粘菌の原」 宿禰さんには、出来ることならzoomを使ってでも直接伺いたいことがたくさんあります。 この「粘菌の原」は、宿禰さんが過去二回も正式な梗概として提出し、さらに今回修正して提出した「粘菌の原」です。よほど、この作品に拘りがあるのかと思います。ここまで、適

        • シロクマは勘定に入りません

          本日、7月30日にSF創作講座最終候補の発表がありました。本来はその前に下の記事をアップしたかったのですが、間に合わず、しかもまだ全て終わっていません。 書こうとした動機は、このところどころで書いているように、一年間梗概未選出の辛さを味わいながら最終作を提出した仲間へのラブレター的なものを書きたくなったからです。 聞き逃しているかもしれませんが、昨年のような最終講義だと最終選出者以外は数名の惜しかった人をあげ、ダールグレンラジオでも、選出者だけの話だったと思います。もしかした

        吉澤、異常なし