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月の垢

8本目のライブを終えて、350個の悔しさを引連れて地元に帰る。
この冬一強烈な寒波が襲い、辺りは無垢な、または無垢のふりが得意なシルクで覆われていた。

電車に揺られなから音楽を聴いていると、訳もなく涙が溢れて止まらなくなった。
端の席に座っておいて良かった。みんなかスマホに夢中で助かった。

差し込む陽の光と雪景色のおかげで、くらい気持ちが幾分か希釈された。
きっと夜なら、希死念慮が遠慮なく僕の首を鷲掴みするところだった。

帰宅後、自身の穢れを落とすようにゆっくり入浴を済ませる。
疲れ果てた身体で片付けをしていると、窓の外から子供のはしゃぐ声。傍で見守っているであろう大人の少し弾んだ声。

雪の放つ光が眩しくて、うざったく感じる。
あぁ、と表しようのない虚しさが部屋に充満する。
ちょっとだけ空気が淀む。浅い呼吸が一瞬止まる。

なにが悲しいのか、なにが喪失感を与えてるのか、誰が虚無を血液に混ぜ込んだのか、なにが心の自傷行為を掻き立てるのか。
そんなことを考えては頭を殴る。

好きなアーティストの新曲も、読みたくてたまらなかったはずの小説たちも、いつの間にか薄ら埃を羽織っており、勝手に罪悪感を覚えたりする。

僕がつまらない思考をこうやって吐露してしまうのは、月が垢をすって地上に乱雑に落としているからだ。そういうことにしよう。
誰か恨みや罪を擦り付けられる奴が1人いれば安心するのが人間だ。

そろそろ惰眠を貪るとする。


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