五月の風 【散文詩】
深夜、床で横になっているわたしの足先は、徐々に砂のようにほろほろと崩れていく感覚があり、それは悲しさよりも、体が軽くなっていく嬉しさの方が大きかった。まるで地面と同化していく感じ。わたしはけっして美しい人ではなかったから、このまま死んで、残った砂がただの汚れだと思われるんだろうな。
一昨日、街ではぐれてしまった子どもは元気でやっているだろうか、泣きながらでもいいから、自分は迷子ですって、お巡りさんか近くの人に言えただろうか。自分の名前をはっきり伝えただろうか。そういえば、あの子が生まれて7年も経つのに、名前を付けていなかった。きっとあの子はこの先、何年経っても自分を子どもだと名乗って、大人になっていくんだろう、そう思うと名前を付けなくて正解だった。
バラバラの存在すべてに愛情を与える必要はなくて、ただ自分のためだけに生きればいいことを知ったとき、本当の意味で自分は存在することになる。
誰かに愛される恐怖で、人を嫌いになって、わたしにも子どもの時代があったことを思い出す。
どうか、お元気で。
砂になっていくわたしの身体と、あの子の心が、風に欠けていく。
きみのために風は吹いている そう思えるのはきみのかけがえのない生活が、日々が、 言葉となって浮かんでくるからだと思う きみが今生きていること、それを不器用でも表現していることが わたしの言葉になる 大丈夫、きみはきみのままで素敵だよ 読んでいただきありがとうございます。 夜野