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たとえ世界が変わらなくても


デザイン(名・自他サ)[design]
①意匠(イショウ)(を考えること)。
②[服]特別のデザインをしたもの。「➖ブラウス」
③設計。「生活を➖する」
-----三省堂国語辞典


昔、美術の専門学校でグラフィックデザインの勉強をしていたとき、ある先生が言った。

「デザインとは、設計の意味で、デザイナーは設計士だ!」

デザインを勉強していた当時はなるほどなと思ったが、デザインという言葉は辞書の意味の通り、とても広い意味で使われている。

服や家具、家電のデザインや、本の表紙、CDのジャケット、スーパーのチラシから、商品のパッケージまで。
そして人生をデザインをすると考えれば、国民全員がデザイナーと言えるかもしれない。



デザイナー(名)[designer](洋服などの)デザインを考える人。「服飾(フクショク)➖」
-----三省堂国語辞典


一般的にデザイナーと呼ばれる職業に焦点を当ててみても、インターネット、スマートホンが普及したことによって、誰でも「デザイン」に触れることができるようになり、その意味はかなりあいまいになっている。

実際にわたしがデザインとは関係のない職場に勤めていたとき、職場の方(普段は二児のお母さん)が、ある日わたしに嬉しそうに声をかけてきた時があった。

「コランく〜ん! 面白い大人のおもちゃを見つけたよ!」

「ゴホッ、なんすかそれ?」

その人のスマホを見てみると、簡単なポップやポスターなどを作れるアプリがあった。
(最近の大人のおもちゃはセンスがあってお洒落だな〜)と心の中で思ったわたしだったが、その人は掛け持ちで別の職場でも働いている方で、話を聞くと今まで手書きで面倒だったポップ作りが、アプリだと既存のフォーマットに画像を流し込んで、文字を打って印刷をするだけだから楽になったと喜んでいた。

さらに別の日には、また新しい大人のおもちゃを見つけたと言って、新しく見つけたアプリの方が自由度が高く、フォントの種類も豊富で楽しいと言っていたのに驚いた。


昔はアナログ、手作業で、それこそ物作りが好きな人がやっていたであろう作業が格段に楽になり、デザインを勉強したことがない職場の人でさえ、フォントの美しさまでこだわって製作していることに驚いた。


もう誰がデザイナーかわからないよな。


そんな世の中の流れの中でわたしはというと、やっぱり物作りが好きで、デザインを勉強することで自分の中の可能性が広がると思っていたし、広告業界、デザイン会社で働くことで、何かが変わると思った。

デザイン会社に就職してからの仕事は思っていた通りだった。一見華やかに見えるが地味な作業ばかりだし、タイトルの文字は1cm、いや、1mm単位で上に下に、右に左に動かしてと指示される。答えが全くない中で、自分の感覚だけを頼りに汚れを落としていく作業。

終わりのないような作業でも、ぼやけた輪郭をはっきりと映し出すような作業が、わたしは何より楽しかった。こうして出来上がったものが実際に世の中に出たとき、自分の中で何かが変わるような気持ちがさらに高まった。
そして、自分が関わった作品を踊り出しそうな気持ちで、行き交う人の中で見た。


でも、何も変わらなかった。


疲れだけが皮膚の上を通り抜ける感覚すらあった。


そうだよな。楽しいのはいつも一瞬だけ。製作をしている一瞬だけ、完成して納品したあとの一瞬だけ。
そうだよな。Appleの創業者がスティーブ・ジョブズだと知っていても、パソコンを作ったスティーブ・ウォズニアックなんて知らないし、iPhoneやMacのデザインをしたジョナサン・アイブを、多くの人は知らないし。
ユニクロやTポイント、セブンイレブンのロゴを作ったのが佐藤可士和さんだなんて、よっぽどデザインが好きでないと知らないしな。


人の心は見えないくせに、デザインの答案用紙はいつもあいまいに見える。


地味で面倒な作業ばかりなのに、作業が終わるたびにまた引き戻される。


もっと先へ、もっともっとこの先へ。


それでもデザインを嫌いになれないのは、デザインの仕事を楽しいと思えるのは、単純に、見たことのない景色を見れる希望が、あるからか。


美しい物が溢れた世の中で、わたしはこの先、何になりたいのだろう。
不細工な物を探すほうが難しい世の中で、わたしは今まで、何を夢みたんだろう。
変わり続ける世界の中で、わたしは今、何をしたいんだろう。


もっと先へ、もっともっとこの先へ。


わたしはただ、心から満足できる美しいものを作りたい。
わたしが美しいと思うデザインを、美しいと思う文章を、一人でも多くの人に届けたい。

そう思うのです。


きみのために風は吹いている そう思えるのはきみのかけがえのない生活が、日々が、 言葉となって浮かんでくるからだと思う きみが今生きていること、それを不器用でも表現していることが わたしの言葉になる 大丈夫、きみはきみのままで素敵だよ 読んでいただきありがとうございます。 夜野