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僕が見ていた夕方の空

小さい頃から、夕方の空には赤い夕日と家の屋根、そして電線があった。

外で遊んでいいのは午後5時まで。たいてい近所に住む友達の家か、知覚の公園か、住んでいたマンションの前で遊んでいた。

家に向かって歩く道に沿って、電線が伸びている。通り過ぎる家から味噌汁の香りがする。道に沿って建つ塀も、今よりすこし高く大きかった。

家に帰れば、いつでもお母さんがいる。ごはんを作ってくれる。ちょっと早足で歩いていた気がする。

僕がかつて住んでいたのは、駅の近くに建つマンションの5階。そのマンションのエレベーターがなんとなく少しだけ怖かったので、よく階段で登っていた。

家に入る前に、マンションから町をちらっと見る。いつもよりオレンジ色のフィルターがかかった屋根が並ぶ。

小さいときにはそんなに興味なかった。けど、大学生になって帰省してからこっそりマンションを散歩したときは「きれいだな」と思った。

今は遠く離れた場所に住んでいる。たまに電話すると、母親は色んな話をたくさんしてくれる。「いつまでも大学生みたいだね〜」とのんきなことを言う。

仕事は終わりきっていないけど、スーパーに行く。思っていたよりもすっきり晴れていたので、小さなコンデジカメラを持っていった。

夕焼けがきれいだなと思って、立ち止まってシャッターを切ってみる。道に沿って伸びる電線が写り込んでいるのを見て、いろいろと思い出した。

帰り道を思い出す。もっと遊んでいたかった。今日もいい日だった。夜ご飯もあるし、いつも見ているテレビ番組も始まるから、まだ楽しみはある。でも今日は終わっていく。

寂しさを感じながら、それでいてどこか気分は良い、そんな日を思い出していた。

もちろんそんな日ばかりじゃない。わりと落ち込みやすい性格だから「世界からいなくなりたい〜」なんてめそめそしている日も多かった。

それでも夕方だけは毎日やってくる。もちろんきれいじゃないなと感じる日もある。でも、町も空も、色も影もすべてが移り変わり消えていく夕方に、ずっと特別な感情を抱いている。

きっと朝の町も好きだと思う。パートナーを職場に送り届けるとき、よくきれいな空を眺めて感動している。カメラを持って撮りに行ってみたいけど、寒いし眠いしベッドから出たくない。

しかしいちばん時間的に撮りやすいのは、やっぱり冬。日照時間が長くなってきて、冬の終わりを感じてきている。それでも朝は眠たい。



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