見出し画像

ハロウィンの花嫁で学ぶロシア語(その8)

公安の地下シェルター。降谷(安室)とコナンの電話。『ナーダ・ウニチトージティ』情報。



ハロ嫁関連の前後の記事は、下記マガジンを参照されたい。

ハロウィンの花嫁で学ぶロシア語



※ 以下、ネタバレになるので、未視聴の方は先に映画をご覧ください。


*   *   *   *   *




*   *   *   *   *


劇場版上映開始の約1ヶ月後。
2022年5月20日に公開された、主題歌『クロノスタシス』とハロ嫁のスペシャルムービー。


劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』× BUMP OF CHICKEN「クロノスタシス」スペシャルムービー【大ヒット上映中!】 東宝MOVIEチャンネル


*   *   *   *   *


『ナーダ・ウニチトージティ』のアジトである地下貯水槽から渋谷警察署に戻るコナンたち。

脅迫対象である村中の結婚式中止が検討される中、再びプラーミャから式の実施を要求する脅迫メッセージが婚約者のクリスティーヌ宛てに届く。

渋谷署からの帰路、降谷(安室)からコナンに着電。
降谷(安室)は、公安が入手した『ナーダ・ウニチトージティ』の情報をコナンに伝える。


*   *   *   *   *


ノートパソコンの画面



На́до уничто́жить 
ナーダ・ウニチトージティ

(発音)

IPA(国際音声記号、ロシア語ではМФА)での表記
[nədə  ʊnʲɪˈt͡ɕtoʐɨtʲ]

発音のカタカナ表記
ナーダ ウニチトージチ
※ -ть の発音は、日本語の「チ」と「ティ」の中間ぐらい。
どちらかというと、軽い「チ」寄り。

(文法・語彙)

на́до (無人称述語) +(不定形) ~せねばならない、~する必要がある

уничто́жить (完) 滅ぼす、(敵などを)殲滅する、(兵器・爆弾などを)廃棄・無効化する

На́до уничто́жить「抹殺・始末しなければならない」「無効化しなければならない」

※    詳しくはその7を参照。



Эле́ника Лавре́нтьева 
エレニカ・ラブレンチエワ

(発音)

IPA表記
[ɛlɛnɪkə   ləvrɛnʲˈtʲɛvə]

発音のカタカナ表記
エリェーニカ ラヴリェーンチイヴァ

Эле́ника (女) エレニカ
語源的意味「明るい светлая」「輝く сияющая」「慈悲 милосердие」「憐憫 жалость」
エレンの女性名ヘレネ(Ἑλένη, Helenē)。古代ギリシャにさかのぼることができる女性名。

Лавре́нтьева (女) ラブレンチエワ
語源的意味「月桂樹、ローリエ/ローレル」
ラテン語の laurus を語源とするロシアの姓。

※    詳しくはその5を参照。



Оле́г Лавре́нтьев 
オレグ・ラブレンチエフ

(発音)

IPA
[ɐˈlʲek  ɫɐˈvrʲenʲtʲɪ̯ɪf]

発音のカタカナ表記
アリェーク・ラヴリェーンチエフ

Оле́г(男)オレグ 
語源的意味「聖なる святой」
古ノルド語(norrǿnt mál / Old Norse / Древнескандинавский язык)のHélgiにさかのぼることができる男性名。

Лавре́нтьев(男)ラブレンチエフ
語源的意味「月桂樹、ローリエ/ローレル」
ラテン語の laurus を語源とするロシアの姓。

※ 詳しくはその1を参照。



Григо́рий Ла́зарев 
グリゴーリー・ラザレフ

※ 画面では「Лаза」と表記されているが、「Лазарев」が正しい。

(発音)

IPA表記
[ɡrʲɪˈɡorʲɪɪ̯  ˈɫazərʲɪf]

発音のカタカナ表記
グリゴーリー ラーザリェフ

Григо́рий(男)グリゴーリー
古代ギリシャ語 γρηγορέω(元気溌剌とした бодрый、用心深い бдительный)に由来する男性名。

Ла́зарев(男)ラザレフ
ラザロ Лазарь(イエスが死後4日後に復活させた)に由来する。

※ 詳しくはその5を参照。



ドミトリー・ラザレフ 
Дми́трий Ла́зарев

(発音)

IPA表記
[ˈdmʲitrʲɪɪ̯   ˈɫazərʲɪf]

発音のカタカナ表記
ドミートリー ラーザリェフ

Дми́трий(男)ドミトリー
古代ギリシャの大地と豊穣の女神デメテル(Δημήτηρ)に由来する男性名。

Ла́зарев(男)ラザレフ
ラザロ Лазарь(イエスが死後4日後に復活させた)に由来する。

※ 詳しくはその5を参照。



画面の文字 

Ча́стная организа́ция семе́й же́ртв тера́кта, совершённого между....
(見切れ)・・・遂行されたテロ犠牲者遺族の民間組織

(発音)

IPA表記
[t͡ɕɪs'tnəjə  ɐr'ɡanɨzatsɨjə  sʲɪ'mʲej  zʲɪr'tvʲ  tʲɪ'raktə  sav'ʲerʂɵnːəvə  mʲɪ'xʲdu]

発音のカタカナ表記
チャースナヤ アルガニザーツィヤ シメーイ ジェールトフ テラークタ サヴェルショーンナヴァ メージュドゥ・・・(以下、見切れ)

(文法・語彙)

ча́стная < ча́стный (形)(民間の、私設の) の女性形。

организа́ция (女) 組織、団体

семе́й < семья́ (女)(家族)の複数生格。

же́ртв < же́ртва (女)(犠牲者、被害者)の複数生格。

тера́кта < тера́кт (男)(テロ行為)の生格。

совершённого < соверши́ть (完)(遂行する、行う) の被動形動詞過去 совершённый の男性生格。

между-(見切れ)
между は前置詞「~の間の」の意。
あるいは、междунаро́дный (形)(国際的な)などの形容詞その他の語の一部分かもしれない。

тера́кт は террористи́ческий акт(テロ行為・テロ活動)の省略形。

тера́кт という見出し語は、研究社露和辞典(1988年初版)、岩波ロシア語辞典(1992年第1刷)には収録されていない(террористи́ческий акт はある)。

時代を下って、コンサイス露和辞典第5版(2003年第1刷)、プログレッシブロシア語辞典(2015年初版)では、тера́кт が単独の見出し語として立項されている。

「恐怖 terror」を意味する「テロ」「テロル」「テロリスト」「テロリズム」という語彙自体は以前から存在していたが、ロシア語圏で「テロ行為 тера́кт」という省略語が繰り返し報道され出したのは、1995年6月のブジョーノフスク病院占拠事件(Тера́кт в Будённовске)だと記憶している(古い記憶なので、あまり自信はないが・・・)。

背景には、第1次チェチェン紛争(Пе́рвая чече́нская война́、1994-1996年)があった。

第2次チェチェン紛争(Втора́я чече́нская война́、1999-2009年)の頃には、モスクワ劇場占拠事件(Тера́кт на Дубро́вке、2002年10月)、ベスラン学校占拠事件(Террористи́ческий акт в Бесла́не、2004年9月)など、大規模なテロ事件が続発し、この頃には本邦の露和辞典に収録されるまでに語彙として定着している。

ちなみに、日本語では「チェチェン紛争」の呼称が定着しているが、ロシア語では「戦争 война́」と称している。
日本語の「紛争」に該当する「конфли́кт」ではないことに留意したい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?