『幸福な遊戯』角田光代

おままごとみたいだ、とときどき思う。わたしと夫は、入籍する前から一緒に暮らしていたけれど、新婚生活はおままごとみたいだとときどき思う。(わたしの夫は家事が上手なので、一人暮らしより暮らし向きはずっと楽で、そして楽しい。)

一緒に住む前は、他人と暮らせると思っていなかった。肉親と暮らすのに疲れて、わたしは大反対にあいながら、強引に理由をつけて家を出た。孤独を愛していると思っていたし、寂しくてたまらないときはふらふらと何軒か気心の知れたお店に顔を出して少しのおしゃべりを楽しんだ。

夫と暮らして驚いたことはたくさんある。夫の隣でぐっすり眠れること。仕事などで悔しいことや苦しいことがあったとき、めそめそすると抱きしめてもらえること。休日にひとりで過ごすのがいつも寂しいこと。2人で食べる食事は楽しいこと。病気のときは2人だと便利だと聞いたけど、わたしがすぐ風邪をもらってしまうので、2人で苦しまなければならないこと。気に入っているグラノーラがなくなると買ってきてもらえること。


夫はわたしのことを「草原に放したら喜んでどこかに飛んでいきそう」と表現するし、「自由に生きろ」と常々言われているけれど、今ひとりぼっちになったら、大泣きするのはきっとわたしだ。所在無く夜の街を彷徨ったり、突然仕事を辞めて外国を放浪したり、寂しさのあまり病気になってしまうのは、どう考えてもわたしのほうだと思う。

夫は、今ひとりぼっちになっても、自暴自棄にならず、空虚な気持ちを抱えたまま仕事に行き、趣味に通い、山に登ったり友だちと旅行に行ったり、ときどきお酒を飲んたりするだろう。強い人なのだ。


ハルオや立人やサトコは、若すぎたんだと思う。きっともっと年を取れば、「生温さ」は「温もり」に変わり、「居心地がよすぎる場所」を自ら得ようとするだろう。わたしが『幸福な遊戯』を初めて読んだのは、中学生の時だった。初めて読んだときは、いろいろすっ飛ばして(大人になったら、こんなこともできるのか)と思った。学生の頃から息苦しさを感じていたわたしは、こんなに他人に優しくしてもらえるサトコが羨ましかった。何にもわかっていなかった。サトコの欲しいものも、失ってしまったものも、果てのない寂しさも。

いつのまにかすっかり忘れたまま、本棚に眠らせていたけれど、わたしは角田光代の小説でこの話が特別に好きだ。ほかの、人間を抉るようなものもよく読んだけど、上手く言えないけれどクロード・モネの青年期の写実画のような美しさがあると思う。

夫のことを書きすぎて、感想文が付け焼き刃みたいになってしまった。

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今年から久しぶりに読書を再開しました。本を読んで、考えたことや思い出したことを書きます。ネタバレは多分ときどきします。なんでも読めるようになりたいです。