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【書評#2】アイデアの発想は流れ作業と同じ!?『アイデアのつくり方』

今回 紹介する本は?

今回紹介するのは、広告業界に携わる人間なら誰もが知るベストセラー、『アイデアのつくり方』ジェームズ・ヤング(CCCメディアハウス)だ。

私は映像業界勤務だが、企画作りの現場では、まさに「定番の一冊」に挙げられる。

決して2回目にしてネタがなくなったわけではないので、そこはご安心をいただきたい。

端的に言ってしまえば、この本は「方法論」を学ぶ一冊だ。

アイデアの「発想」というと天才的なひらめきやインスピレーションが必要だと思われがちだが、ヤングによれば、アイデアの発想は「技術」であるという。

さて、本記事では、「本質」と「結論」に絞ってお伝えする。

「本質」と「結論」とは、下記のようなことだ。

  • 「本質」=著者が最も伝えたいこと

  • 「結論」=読者が最も知りたいこと

厳密に言えば、私個人の推量が入ってしまうがそこはご容赦いただきたい。

アイデアの製造は「技術」である

アイデアの発想は、特権的な才能によって、もたらされるものだと誤解されやすい。

最近は「ギフテッド」という言葉が広まっているので、ますます「天性の才能」を、隔絶した存在だとみなすかもしれない。

しかし著者によれば、アイデアの発想は単純な「技術論」である。

『アイデアのつくり方』は、長いあいだ、多くの人に読まれてきた。検索すればいくらでも要約があると思うので、今回は抜粋とはいえ、「技術論」としての「アイデアの発想法」はすべて載せる。

とにかくページ数が薄いし、肝心の内容も探せばすぐ出てくる。

そこに付加価値を載せなくてはならないのがつらいところだが、文句を言っても仕方ないので、早速始めたいと思う。

内容を載せる前に、本書の本質をお伝えしたい。

『アイデアのつくり方』の本質は、やはりアイデアの発想を徹底した「技術論」「方法論」として、著者が紹介していることに尽きると思う。

今となっては当然ではないかと思うことも、本書が出版された当時においては、あまりに衝撃的だったかもしれない。何しろ「インスピレーション」という語に「霊感」の意味合いが含まれているくらいだ。

さて、著者がアイデアの「発想」を「技術論」だと捉えていることがはっきりわかる箇所があるので、一部の発言を引用しよう。

私はこう結論した。つまり、アイデアの作成はフォード車の製造と同じように一定の明確な過程であるということ、アイデアの製造過程も一つの流れ作業であること、その作成に当って私たちの心理は、習得したり制御したりできる操作技術によってはたらくものであること、そして、なんであれ道具を効果的に使う場合と同じように、この技術を修練することがこれを有効に使いこなす秘訣である、ということである。

『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)、p18

個人的に注目すべきと思うのは、「フォード車の製造と同じように」と形容詞的に述べられているところだ。

フォード社はかつて、工場での製造過程を精緻に分け、1つの工程では1つの作業しか行わないことを徹底して、「T型フォード」の大量生産に成功した。1920年代、アメリカではこのフォード車の成功により、車が爆発的に広まった。

著者が、アイデアの発想を「フォード車の製造」に例えた意味は大きい。アイデアの製造には、明確な工程があり、1つの工程においては、1つの作業を行えばいいことになるからだ。

お待たせしてしまったが、製造工程は以下のようなもの。

  1. データ集め

  2. データの咀嚼

  3. データの組み合わせ

  4. 発見の瞬間

  5. アイデアのチェック

内容は意外なほどあっさりしている。だが実際こう書いてあるのだから仕方ない。もう少し説明を加えよう。

最初の「データ集め」は、基本となる作業だ。比類なき天才でも無から有を生み出すことはできない。要は発想したいアイデアに対して、必要な資料を収集する段階だ。

次に「データの咀嚼」である。集めたデータを色々な「触覚」で触れてみる段階。少しわかりづらいだろうから補足すると、見る視点を変えるとか、そうした要領で行われる。

また、どんなに突飛で不完全なヒントであってもないがしろにしてはいけないとされる。どんなことであろうがノートやメモ、カードに書いておき、のちの段階で活かせるようにしておく。

3番目は「データの組み合わせ」である。とは言っても、集めたデータを手作業で組み合わせていくという、あまりにも気の遠くなるような作業ではない。むしろ意識的な努力を排除することこそが、この段階の極意だ。

著者は、これまで扱ってきた問題、考えてきた事柄を完全に放り出すことを勧めている。

データ集め、データの咀嚼と続いて、一旦その集中を手放し、あとは無意識の領域に任せる。本書が書かれたころよりも、今の方がずっと無意識の効用が知られているので、ここでは他言を要さない。

無意識下のほうが、膨大な情報を処理できるので、一旦考えをそちらに放り投げてしまうということだ。

そして「発見の瞬間」。ここでも意識的な努力は必要ない。発見の瞬間は、第3段階までが終了すると、勝手に訪れるからだ。

歩いているときや乗り物に乗っているとき、シャワーを浴びているときに、ふと良い考えが浮かぶことがある。

「発見の瞬間」は、まさにそれを指している。

最後が「アイデアのチェック」。個人的には、この段階が最も重要ではないかと考えている。

著者によれば、第4段階までを経て生み出したアイデアは、冷静になればそんなに優れたものでないと気がつく。だが「見込みなし」と放棄してしまってはだめで、生み出したアイデアを「現実世界に適応させるべく、創意工夫を施さ」なければならない。

アイデアを、実際に使うために磨いていくフェイズである。ダイヤモンドの原石を、ダイヤモンドにすべく磨く。この工程を経て初めて、アイデアは優れたアイデアになり、実生活のなかで使用できるというわけだ。

アイデアの具体的なつくり方

アイデアの発想、著者風に言えば「アイデアの製造」は、思ったよりも泥臭くて、かなりテクニカルな話であるとわかっていただけただろう。

であれば、読者が1番知りたいことは、このテクニカルな手法をどのように用いれば、上手にアイデアを製造し続けられるか、というところではないだろうか。

参考になりそうな手法をいくつか紹介したい。

まず、端的に言って、5段階のプロセスのうち、特に苦労するのは、1段階と5段階目だと考える。すなわち「データの集め」と「アイデアのチェック」だ。

第1段階の補足


第1段階では、多量のデータを集めなければならない。著者の分類によれば、「特殊資料」と「一般的資料」に分かれる。前者は主題となるテーマに関するデータ、後者はそれ以外のデータ、あえて言うなら「教養」と呼ばれるものに近いかもしれない。

新たなアイデアは、既存のアイデアの組み合わせによって生じる。したがって主題となるテーマに詳しければ詳しいほど、また教養が多ければ多いほど、斬新なアイデアが生まれる確率は高くなる。

今回紹介するのは「教養」を高める方法だ。「特殊資料」のほうは、考えたいテーマによって異なるので、その分野の入門書や専門書を読むなりすると良い。一方、「教養」は何から手をつけていいのかわからない人も多い。

そういう人は「なるべく新しい情報に接する機会を多く持つこと」を意識すると良いと思う。

毎日、1つでも新たな情報に触れておけば、脳は無意識下でそれを保存してくれる。とにかくタッチポイントを増やすイメージだ。

参考になりそうな書籍のリンクを貼っておく。

第5段階の補足

さて、5段階目では、4段階目までを経て生み出したアイデアを、現実の厳しさに適当させないといけない。

ビジネスや勉強で使うなら、最適なかたちに加工する必要がある。

著者は、5段階目まで至ったアイデアを第三者に見せるよう助言する。優れたアイデアの原石は、不思議とそれ自体が成長する性質を持つ。第三者の忌憚のない意見を取り入れれば、それだけアイデアは膨らみ、多様性を増す。

だが仲間に頼れない人もいると思うので、私は「時間を置くこと」を推奨したい。1日でも構わないので時間を置くと、昨日の自分が相対化されるからだ。冷静な視点を得られる。

アイデアを寝かせることの効用については、参考になる本があるので、これまたリンクを貼っておく。

『思考の整理学』自体が名著かつベストセラーであるので、いつか扱いたいと思う。

まとめ

本書を紹介したのは、本音を漏らしてしまえば、ページ数があまりないので記事を書くのが楽になると思ったからだ。

しかし書いているうちに、思いのほか構想が膨らみ、結果前回の『イシューからはじめよ』よりも、文字数が多くなってしまった。

やはりと言うべきか、ベストセラーかつロングセラーなだけはあり、読んで損はない内容だったと思う。

私がここで「必読」とか「必見」という言葉を使わないのは「読書のミニマリズム」を掲げる人間として、絶対に読むべきだ、という必要性までは感じなかったからである。

読んで損はない内容だが、絶対に読む必要はない。

理由としては、アイデアを取り扱った書籍がすでに何冊も出ていることが挙げられる。

本書の内容が古びた、ということではない。単純に「アイデアのつくり方」自体が、変化の激しい時代においてアップデートされているのである。

特に『考具』は、具体的な発想法をいくつも紹介している。企業の企画担当者が目を通すなら、本書よりこちらが優先されるだろう。

以上、今回は『アイデアのつくり方』をレビューした。参考になれば幸いだ。


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