荒野 01君は誰だい

彼はどうやら何処かの街のある一角の砂粒のようなちっぽけで石ころみたいにありきたりな所で生まれたらしいんだ。詳しいことはよく分からないけど、どうやらそうらしいんだ。でもって其処で生まれたのは誰よりも白い、白い、小さな赤ん坊だった。だけれども、一体誰が親なのだろうか、それが分からない。彼は何の日でもない、雪でも雨でも曇でもなかった、夜中にぽっつりと生まれたんだ。名前なんてあるわけがない。あっても使われない。彼は彼なんだから。彼は、何時も、麻で編まれた大きな袋に穴を開けて、首と手を通しただけの、いや彼にとっては立派な服を来て、歩いていた。彼にはこれと言って人間が持ち得ているような、三大欲求というものがないらしく、ただ、時たま静かに寝息を立てているのは発見されたりするのだが、それ以外はどこかに彷徨っている様でしか見つからない。とにかく不思議な子供だったらしい。しかし彼は病的に白くて、幾ら日にあたっても焼けることもなくて赤く腫れるわけでもなくて、全く色を失った見たいに真っ白なんだ。何色にも染まっていないんだよ。所謂アルビノ種っていうのかな、そういったものとも違うんだ。確かに色が抜け落ちているけど、でも彼の存在はそれ以外になり得ないとでも言うのかなそう思えてくるんだ。どこか浮世離れした存在で、酷く希薄なんだ。いても居ない、でも居る、確かにいる。彼は何だったんだろうか。何時もにこやかに笑っていたのは覚えているような気がする。生まれた赤ん坊がどうして、小さな子どもにまで成長して、彷徨う程になったのかは分からない。誰も、彼も、彼を相手にしなかったわけじゃないけど、話したかもしれないし、触ろうとしたのかもしれない。そんなことはわからないけど。でも確かに歩いてはいたんだ。可愛らしかったかもしれない。眼の色はなんだったかな、多分ブルーとブラックを足してどんどん薄くした色だと思うよ。深いんだ、とにかく深くて、深くて、吸い込まれそうで、冷たいんだ。でも存在は雪のように軽くて、吸い込まれたってへっちゃらじゃないかって思われても来るんだ。彼は一体、なんだったのかな。かれは確か冷たかった気がする。どこまでも冷たくて、冷たくて、氷みたいで、でもあったかいんだ。いろんな矛盾が彼を支配していたよ。ああ、彼は不思議な存在だったな。本当に、本当に。

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