荒野 02輪舞曲はいかが?

白は街の中を逍遥とする。何をするわけでもなくて、何をしたいわけでもなくて、あゝ、彼はさまよっていた。靴などあるわけでもなくて、ざりざりとした地面が彼の足をずっとじくりじくりとさしては血が流れるわけでもなく、ひやりひやりと地面に白は霜を作りながら、あるくのだ。石造りの家々の隙間、取り残されたように置かれた寂れた公園の砂場に一人の少女がいた。特に少女はお友達を集めるわけでもなく、一人のままで、砂場をいじくりまわしていた。指先でくるくる回してみたり、手にすくってはさらさらとしてみたり。なるほど、一人遊びがうまいのだ。少女にとってはくるくる回る砂場は渦潮で、手より流れて落ちる砂は命だ。無情にも命は渦に飲み込まれて、その他と同じ存在になる。少女は少女ながらにして命の流転について考察しているのだ。素晴らしい少女だ。少女は白に気が付いた。白は微笑んでいた。小さく微笑んでいた。とりあえず微笑んでいた。白はゆっくりと少女に近づいた。少女もニコリと笑った。大きく笑った。少女は砂場の砂を一つ山を作って、白の為の椅子を作ってくれた。白はお辞儀をしてその椅子に座った。少女はお辞儀にお辞儀を返して、砂を両手ですくってずいと白の所へ差し出した。白はうなずいて、その両手の下に自分も両手を器にして置いた。少女はゆっくりと砂を流していく。白い器は死んだように静かに砂を受け止める。さらさら。サラサラ。しゃらしゃら。シャラシャラ。流砂が刻々と器の中に満たされていく。白は唯それを受け入れて、満ちていく聖杯を見つめる。その杯の中にすべてが満ちた時、白はすく立ち上がった。一粒もその掌の内より出すことなく。少女もそれにならって、立ち上がった。白はその手を器から球へと変える。握りしめられる砂ゝが苦しそうにキュウキュウと鳴き声を立てた。少女はこれから起こることへの崇高さと神聖さを感じて真っ赤なドレスのスカートの両端をつまみ上げ、静かに頭を垂れた。白はぱっと手を振り上げ、その結びを解く。

「まぁ、雪、雪だわ!貴方って魔法使いだったのね、素敵だわ!」

少女はわっと手を広げてくるくると回りながら雪をその手につかもうとした。くるりくるくる、円を描いて、ぷっくりと膨れた可愛らしい両頬をりんご色に熟させて、白は少しだげ苦笑いを浮かべた。

「ねぇ、貴方の手って凄いのね、砂を雪にしちゃうなんて。」

少女は宝物を握りしめるように白の手を両手で握りしめた。白は悲しそうな顔を少しだけした。少女はにこにこと握った手を振るっている。

「あら、大変。私の手、凍っちゃったわ。」

少女は白から手を離してまざまざとその凍った右手を見つめる。おずおずとあまり凍ってない方の手で、ちょっぴりとだけ触ってみる。ひんやり、指先に触ると、右手は椿が落ちるみたいにぽっとりと落ちてしまった。

「どうしましょ、手が落ちちゃったわ、困ったわねぇ。ねえ、貴方、私の手、くっつけてくださらないかしら。」

少女はニッコリと、落ちていない手でまたスカートの橋をつまんで持ち上げると、膝をゆっくりと曲げ、白に頼んでみせた。白はこっくりと相槌を打つと、風がさわさわと通り抜けるような軽やかさで、すらりとした手を、落ちた手に伸ばすと、やわらかな手つきでそっと拾い上げて、少女の折れてしまった所にあてがった。パキリパキリと腕と手が凍ってはくっついて、そして少女の未成熟な身体にまで霜が走ってゆく。

「身体が凍ってゆくのって、ほんの少しだけ冷たいだけなのね、意外だわ。」

冷たく凍る。少女は凍っていく。するりするりと遊ぶように、少女は白から離れてまたくるくると周り、踊り始めた。

「素敵な素敵な真っ白さん、貴方は私に雪を授けてくださったわ。だから私も貴方に見せてあげる。くるくる回って踊るのよ。綺麗に踊るから見ていてね。」

少女の情熱的な踊りが凍っていく。真っ赤なドレスに、霜が走ってうっすらピンクに変わって、身体が身体が氷に変わっても、少女はにこやかに踊りを続けた。ゆったりとして、壮大で、綺羅びやかに、舞ってみせた。

「これで終わりよ、綺麗だったでしょ?」

少女は甘い果実のようになめらかな香りを漂わせて、両手を大きく広げてお辞儀をしてみせると、完全に身体は凍ってしまって、頭の天辺から足先までが冷たい冷気を放っていた。白は、親愛なる友を抱くように、そっと少女を両腕で抱きしめた。

「ふふふ、素敵な素敵な真っ白さん、貴方ってちょっぴり、暖かいのね。」

ひゅっと風が舞い込んで、少女が空に舞う。ピンク色の綺麗な雪が、空中を優雅に彷徨うと、閑散として、渦を巻く砂場の奥へと姿を消した。

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