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短編小説『ギシギシ』

  冬の空気に混じるファストフードや牛丼の安い油の匂い。空き地に寝転んで泥が髪に服に染みていく気持ち悪さを感じていると段々なにも考えられなくなっていった。土に還るってこんな感じだろうかと少しだけ思った時、指が飛んできた。
 比喩でも何でもなく人の、恐らく女性の、さらに恐らくは中指。
「あ、ゴメンそれ私の」
 ヨロヨロと歩いてくる女性は血を滴らせていた。左手を押さえながら震えている。
「ごめんなさい、ごめんなさいね」
 そそくさと拾って立ち去ろうとする様はさも忘れ物を取りに戻ってきたようだった。
「あの!」
 バシャーン! と水音を立てて立ち上がった僕が言えたことは「どうしたんですか」という普通の言葉で、女性から返ってきた「君こそどうしたの?」という笑顔もとても普通に思えた。
 女性は中指を切られ、僕も右目をえぐられていることを除けば。
「これはちょっとした手違いです」
「そう」
 自然に並んで路地裏を歩き始めた。探していた半身を見つけた感覚。手放したくない。まだ手に入れてないが。
「病院ね、この先に3つあるの。怖い先生と可愛い先生と変態の先生。どうする?」

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712字

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