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短編集『遺伝子組み換えでない』

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比較的初期に書いた短編を集めました。
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記事一覧

短編小説『たとえば季節が廻ったら』

 会いませんか。  画面に現れたその言葉を見た瞬間、私は今までの人生(って言ってもたった…

短編小説 『夕映』

 信号の向こうが逆光になってよく見えなかった。「じゃー!」という光の先からの声に「あー!…

短編小説『余花迷宮』

 灯篭がトンネルの中をぼんやりと照らしている。まるで大水の後のように地面はうっすら湿り、…

短編小説 『氷の炉』

 真夜中、物音ひとつしない部屋で少年はひたすら机に向かって微動だにせずにいた。眠っている…

短編小説『唾棄』

 飼い殺しにされる犬の生涯について考えたりしているのは酔っ払って朦朧とした頭だからではな…

短編小説『Lifework』

 怯える捨て猫の首を絞めた。寒さに凍える彼女の細かい震えがいつまでも手のひらで消えない。…

短編小説『水溜りの月』

 鏡に問う。 「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」  ではなく、ニヤケ顔でこう訊く。 「お前は誰だ?」  繰り返す。リフレインするほど言葉は重みを増して、鏡はぼやけていく。 「お前は誰だ?」  この恐ろしい表情をした男は、逸らしてしまいたい目は、叫び出しそうな口は、今にも飛び出して襲いかかってきそうな、お前は、誰だ?  洗面台から男は呆けた顔で玄関へ向かう。何処へ行きたい訳でもないが、恐怖がこの場へ留まることを許さない。悲鳴を上げたくともそんなことをした瞬間に何かが自

短編小説『天使回路』

 あんまり遠くに行くなよ、って言ったその時に感じた気持ち。子供が出来たらこんな感じかな、…

短編小説『ギシギシ』

  冬の空気に混じるファストフードや牛丼の安い油の匂い。空き地に寝転んで泥が髪に服に染み…