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頭足類文学

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読まないと後悔することになるでしょう。
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#文芸ヌー

最後の一文小説(モンゴノグノム)

そして、数億もの人間が一斉に咆哮し、世界はつんぼとなった。

次々とてのひらからこぼれる君の砂、砂、砂。

この指、私のじゃない。

「あれよ、あの、一番背の高い、銀色の木」

そこには望郷の焼け焦げた匂いが蟠っていた。

丸めて放り投げたその紙は、ゆっくりと真っ直ぐに君の星へと向かってゆく。

鯖は最後まで鳴き止むことはなかった。

義兄と私だけが残った。

今宵、彼女の乳歯が2本抜けるだろう。

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怪鳥A(モンゴノグノム)

空中にたくさん浮かぶ蓮の花が咲いては枯れ、咲いては枯れを繰り返していてアホらしい。
頭がビーカーの男は蹲踞の姿勢でこちらを向いている。
「こちらにお掛けなさい」
天狗の面の形をした椅子を手でゆったりと示す。
座ろうとすると天狗の鼻が肛門に当たったので、すぐにまた立ち上がると、
「大丈夫。そのまま座ってみなさい」
恐る恐る再度腰を落としてみると、天狗の鼻が尻の加重に合わせて引っ込んでいく。
「ほらね

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明朗の蝶々(モンゴノグノム)

窓からはらはらと蝶々が入ってきた。銀色の蝶々だ。
翅をはばたかせず、部屋の中の微妙な気流に乗って、ティッシュのような軽やかさで漂っている。
「そんなガになんて気を取られてないで、こちらに集中してください」
「ガなのですか」
「どう見たって、ガでしょう」
先生には目が一つしかない。私は親しみと敬意を込めて、一つ目先生、と呼んでいる。
「ガなのですか」
「あなたがその時、手に取っていたものを教えてくだ

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トメィトゥ(モンゴノグノム)

僕は今、ポケットの中にトメィトゥを入れています。

トメィトゥですよ、トメィトゥ。知らないでしょうね、トメィトゥ。トメィトゥとは、ナス科の真っ赤なまん丸い果実で、衝撃を与えるとものすごい威力で爆裂するんですよ。ほほほ。ぽりぽり。この威力というのが、それはもう絶大な威力で、たとえて言うならば、東京ドーム1つ分といったところですね。つまりテニスコート180つ分。右ポッケの中で弄んでいるわけですけど、ち

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チュパカブリング(モンゴノグノム)

サァサ、今から、入って全部が見られますヨ。ハイ、ぼっチャンからおじいチャン、おじょうチャンからおばあチャンまで、サァサ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。皆様とご一緒に、このお姉さん、丸の裸で立ち上がるところから、まず、見ていただきましょう。今から入られますとネ、お時間のない方でも5分あれば出てこられます。どうぞ、どうぞ。コレ、チュパカブリングの実演ですヨ。絵に描いたものとか、瓶詰めのものとかでは全

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