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[小説] X-AIDER-クロスエイダー- (4)

「じょ……情報知性体?」
 聞き慣れない言葉ばかりで、めまいがしてくる。
「君たち地球人にわかりやすく言えば、いわゆるサーバーやクラウドみたいなものだな」
 サーバー、クラウド。今どきなら学校の情報の授業でよく聞く言葉だ。
「つまり、君はパソコンやスマホみたいにこの猫を通じてぼくと会話しているわけだね」
「そうだ」
 猫は、ひげをピンと弾いた。
「ふーん」
 猫はさらに続ける。
「われわれは、この銀河に生きとし生けるものの感情や文化など様々なものを学んできたんだ」
「だから、サーバーとか知ってるんだね」
 そうだ、と猫は言った。
「でも、学んできた中には悲しみや憎しみといった負の感情というものが生まれた」
 猫は、腕を組んだ。
「奴らは、分離すると、地球に向かって逃走した。で、われわれはそれを追うべく、端末を使わした」
「それが君なの?」
 ぼくがそう言うと、猫はうなずいた。
「そうなんだ。でも、悪いやつらを追ってきた君がなぜぼくにお礼をしに来たわけ?」
 すると、猫はあっけらかんとした調子でこう言った。
「地球の生き物は、助けられたら必ずお礼をするのが通例だろう?」
 ぼくは、あきれてものも言えなかった。
「もちろん君のために何でもするつもりでいる。だから、君のそばにいさせてくれ」
「ええ……」
 ぼくは返答に困った。なぜなら、このアパート、ペットを買うのを禁止してるからだ。
「うーん、それはできないよ。ここペット禁止だもん」
 でも、猫は負けない。
「それは大丈夫だ。バレないようにするから」
「ダメだよ、決まりだから」
 ぼくがそこまで言いかけた時、後ろから声がした。
「あら、早いわね」
 振り向くと、すみれ色のウィンドブレーカーを着た四十代後半くらいのおばさんがにこにこと笑っていた。その傍らには立派な毛並みのゴールデンレトリバーが立っている。
「こんな朝早くから何をしてるの?掃除?」
「あ……え……そうです」
 ぼくは、口籠もりながらもそう答えた。

「あらあら、偉いわねえ」
「ええ……まあ」
 ぼくは、足で必死に猫を隠しながら返事をした。すると、何かに気づいたかのように、おばさんが連れていた犬がおもむろにぼくの足元を嗅ぎ始めた。
「わわっ!」
「ふふっ、この子ね、人懐っこいのよ」
 おばさんは、リードを握ったまま、犬をなでた。
「へえ、何という名前何ですか?」
「チャロよというのよ」
 おばさんは、まるで歌うかのように、その名前を口にした。
「かわいい名前ですね」
 ぼくは、内心おばさんの注意を別の方向に向けられたとほっとした。そうしてるうちに、チャロは、匂いをかぐことに飽きたのか、今度はぼくとおばさんの周りをぐるぐると回り始めた。
「どうしたの、チャロ?」
 チャロは次第に体をブルブルと激しく震わせ、荒い息をしだした。そんなチャロに、おばさんが近づいたその時、チャロは、いきなり襲いかかった。
「チャロ?落ち着くのよ」
 おばさんはなんとか止めようと、リードをきつく握る。
「チャロちゃん。あんたはいい子でしょ? だから一緒に帰ろう、ね?」
 しかし、彼女の切なる願いは、すぐに裏切られてしまった。暴走が止まらなくなってしまったチャロは、そのまま走り出してしまった。リードをきつく握っていたおばさんは、それに釣られて引きずられてしまった。
「おばさん!」
 ぼくは両手の拳を握りしめた。
「……行かなきゃ」
 ぼくはたまらず走り出す。その時、目の前に猫が来た。
「少年、われわれもお供しよう」
「ありがとう」
 また走り出そうと思ったが、次の瞬間にはもふもふの手に止められてしまった。
「待て、遠くに行くなら乗り物も必要だ」
 すると、どこからともなくスケボーが飛んできた。
「え……」
 呆然と立ち尽くすぼくを、猫は早く乗れと言いたげな顔で見つめていた。ぼくは恐る恐るスケートボードに片足をのせる。
「ぼく、乗ったことなんてないんだけど……」
 ぼくがそこまで言ったその瞬間、突然スケボーが猛スピードで走り出した。
「落ちないように気をつけろ」
 いつの間にか肩に猫が乗っていた。
「うん」
 猛スピードで流れゆく景色の中、ぼくは何とか振り落とされまいと、バランスを取った。
 
(続く)

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