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[小説] X-AIDER-クロスエイダー- (8)

 湯の花市に引っ越してきて二週間。暦は早くも四月になっていた。そんなピカピカ日和の朝、ぼくは、家族と朝食を食べていた。ちなみに、今日はぼくとサヤの初登校日だ。この日の朝食は、目玉焼きと、魚肉ソーセージ。全部大好きだからいつもなら、全部たいらげるところだけど、今回はちょっと残すと決めていた。チャコにあげるためだ。ぼくは少しだけ残した後、別の皿にそれを移して席を立った。
「お兄ちゃん、どこへ行くの?」
 当然、サヤには怪しまれた。
「え、トイレだよ」
 ぼくは、皿を必死に隠しながら、自分の部屋に向かった。
 自分の部屋に着いたぼくは、部屋に響かないくらいの声で、こう言った。
「チャコ、ご飯だよ」
 すると、机の上に、光とともにチャコが現れた。チャコは、あくびをすると、ぼくのところまでひとっ飛びしてきた。
「今日のご飯はなんだ?」
「目玉焼きと魚肉ソーセージ」
 チャコはぼくが持ってきた皿の中を覗き込む。
「ほう、それは興味深い」
「おいしいよ」
 ぼくは、皿を彼の前に置いた。これは、チャコと二週間暮らしてみてわかったことなんだけど、チャコは食えるとわかったものなら、なんでも食べる。犬にとってはチョコレートは毒だとか、猫にとってウィンナーは危険物だとかはうんちくで語られる程度に有名な話だが、チャコの場合は接続した生物の体質を、分子レベルで都合のいいように最適化しているらしい。そのせいか、チャコは地球の人間の食べ物、特に魚肉ソーセージがお気に入りだ。チャコは、目玉焼きを一口食べると、首をかしげた。
「ナオトくん、こういうのを地球人は食べて喜んでいるのか?」
「うーん、なんというか」
 ぼくはそれ以上答えられなかった。
 一時間後。ぼくが身支度をしていると、チャコがやってきた。
「ナオトくん、何をしているんだ?」
「何って、学校に行く準備だよ」
 ぼくがそう答えると、チャコはこう答える。
「ナオトくん、わたしもその学校とやらに連れていってくれないだろうか」
「はあ?」
 ぼくはあっけにとられた。そんなぼくを前に、チャコは続ける。
「われわれの目が届かないところで、インベーダーが出られたら困るからな」
「ああ……」
 いけない、すっかり忘れていた。ぼくとチャコには、この地球のどこかに潜んでいるというインベーダーから地球を守るという使命があったんだった。
「うーん、だったらしょうがないな」
 ぼくは腹を決めることにする。
「連れてってあげるよ。ただし、みんなの前で姿は見せないでね」
「うん、それは十分わかっている」
 チャコはそう言うと、体をランドセルに入るくらいのサイズにまで縮めた。
「さすがだ、よくわかってるじゃん」
 ぼくは、チャコを手のひらに乗せて、人差し指でなでた。

 ぼくたちの通う学校は、アパートから十五分くらい歩いた先にある緩やかな坂の上にあった。
 星森小。
 まだまだつぼみのままの桜並木の先にあるとんがり屋根が印象的な建物がそれだ。環境が変わると人は大いに緊張すると言うけど、その御多分にもれず、ぼくもガチガチに緊張していた。
「お兄ちゃん、もしかして緊張してるの?」
 緊張しているぼくに対し、サヤはいつも通りだ。あの小さな体のどこに、すごい度胸があるんだ?できればその心臓に生えている毛を少しでもいいから分けてほしいよ。そんなことを考えていると、ランドセルの中からチャコがテレパシーを送ってきた。
「これが学校か」
「そうだよ」
 ぼくもテレパシーを送る。
「今日からぼくは、ここで勉強するんだ」
 そんなこんなで、早くなる胸の鼓動を抑えながら、ぼくは昇降口までたどり着いた。これから始まる新生活。ここでも友達ができるといいな。そう思いながらぼくは、一歩を踏み出した。

(続く)

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