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【Traveling】令0603〈01.緯度を下げる〉

1.霞む目的地を追って

西へ,南へ。
北緯40度で生まれ育った自分にとって,「ニシ」,或いは「ミナミ」という響きは格別の意味をもった。
ここは日本の端,あちらも日本の端。センター:中央側の人間が端へ赴きたくなる欲求は勿論有るだろうが,端側の人間もまた中央を飛び越したその先:対極の端に,シンパシーと同時に,全く異なる未知の土地,異郷としての関心を寄せるだろう。

九州に行ってみようか。
そう考えたのは,資金繰りに目処が付いた年始ごろ,福岡へ向かう航空便が花巻から出ていることを知り,高校卒業記念,というか,時間のある3月,何処かへの遠出の選択肢中に「九州行き」が現実味をもって頭に浮かんだ頃だった。
令和6年1月下旬,頭を悩ませながらもこれまでで最長となる旅程を組み上げ,2月初頭,慣れない手つきで航空便と宿を予約した。航空機搭乗及び宿泊,どちらも一人では初めての経験となる。

3月1日,3年間の慌ただしかった高校生活が思っていたよりも呆気なく終わり,証書を手に帰宅すると,すぐに荷造りを始めた。明日は強い寒気が被さる予報で,かなり不安であるが。

明朝,運悪くも花巻空港はJALホームページ「運航の見通し」中に名を連ね,本当に飛ばないのでないか,との不安はいよいよ高まった。
計画では朝7時に八戸を出る普通列車で盛岡まで向かう予定であったが,情報を家で確認し,欠航が決まった場合に無駄な動きをせずに済むよう,ギリギリ間に合う時刻の新幹線に乗ることにした。ロングシートの2両と僅か数百円程度しか変わらないのだから,こっちの方が上等だろう。
ホーム柵を隔てて滑り込んだ青緑の車体に覚悟を決め,10時17分,東京行き「はやぶさ16号」へ乗り込んだ。

八戸駅12番線。遠出のはじまりは,いつもこのホームから。

〈1.3月2日 10:17~10:45 JR東北新幹線はやぶさ16号 東京行き(八戸~盛岡)〉

2.不安

盛岡で降車

10時45分,列車は,文字通りあっという間に盛岡へ到着した。
雪の舞う盛岡。ああ。大丈夫なのか。
自宅,列車内,駅,と次第にその圧を強める不安感であるが,気にしないふりをして在来線改札へと向かう。張り切って23日に買った「本八戸駅E2」発行の青春18きっぷ。この120mm券に,これからの移動の大部分を頼ることになる。1つ目の入鋏印が捺された。
跨線橋を降りホームへ並ぶ。折り返し列車の到着が遅れているようだ。もう3月とは言えど,寒波の盛岡の寒さは伊達ではない。身を震わせながら,半ば祈るような気持ちで列に立っていたと思う。

〈2.3月2日 11:04~11:40 JR東北本線普通 一ノ関行き(盛岡~花巻)〉
〈3.3月2日 12:20~12:24 JR東北本線普通 盛岡行き(花巻~花巻空港)〉

上の盛岡到着の写真から福岡空港まで,実は写真を1枚たりとも撮っていない。それだけ自分の便が飛ぶのか飛ばまいか神経質になっていたこと,それに後半は飛行機の窓の外に夢中になり,写真を撮っている余裕などなかったのだと思う。ご容赦いただきたい。
花巻~花巻空港の無駄な折り返し乗車もあまり意味がわからないが,「ただ待つ」という行為があまり得意ではなく,少しでも何かをしている状態で時間を潰したかったのだと思う。「病院の待合室的ドキドキ」がかなり苦手だ。

花巻空港駅舎内で,強まったり弱まったりする風と雪が窓の外を暴れ回るのを,恨めしく眺めていた。この時が多分,最も落胆気味だったと思う。
なぜ,今日に予約したんだろう。明日でも明後日でも,良かったのに……

思いを巡らせるうち,盛岡から空港に直結するアクセスバスが,雪を突っ切り軽快に二枚橋の街中に滑り込んできた。ここから乗る客は自分の他にもう一人居て,車内には既に数人が盛岡から乗っていた。境遇を同じにする同士が数人でも居る,という事実は,ほんの少しではあるがこの天候の不条理さに対して,抗おうとするバネのように機能したと思う。

3.曇天中の光明

花巻空港に着くと,明るく開放的な建物に感心した。とても綺麗な空港だ。
それはそうと,……さて,飛ぶのかどうか………
初めての保安検査を通過して待合室に腰掛けていると,放送が。
どうやら,到着便が着陸できるかどうかで出発の可否が決まるらしい。

入ってきた航空機は………………!


滑走路に着陸したのが遠目に見えた。

同時に放送が流れる。出発可能だそうだ。
一気に全身の力が抜けた。心臓に悪すぎる。なるべく天候の安定した時期に遠出はするものだ…。
安堵と共に,搭乗口へ向かい初めてのボーディング・ブリッジを抜けて機内に入った。
〈4.3月2日 14:05~16:15 JAL3526便 花巻発福岡行〉

4.雲上にあった青空

乗った。
やはり航空機ともなると,種々の交通機関とは段違いの説明量の多さ。
真面目に聞き入ってしまった。

動き出した。なんだこれは。無茶苦茶に恐いじゃないか,この離陸に向かう微妙なゆっくりさが。そして一気に轟音が重なってくる。ウワウワウワウワウワウワウちょっと待ってください。ギューーーーーーン…………………。。。。

浮かんだらしい。怖すぎるだろ。マジか。
離陸は正直なところ結構な恐怖であった。それはそうだ,この巨体が宙に浮かぶんだもの。
高度が上がっていく。めちゃくちゃ不安定なエレベーターの気分。

……しばらく真っ白な窓の外が続いたが,抜けたらしい。
ここは,雲の上…?
飛行機知識が一ミリとも無い自分にとって,実のところ航空機がどこまで高度を上げるのか,謎であった(一般常識なのだったら,恥ずべきだと思う)。
雲の上から見下ろす,という経験を初めてした。こんな高い所に居る……。

先刻までの地上の荒れ具合から一転,嘘のように澄んだ青空が顔を見せる。
あまりの激動っぷりに,夢中で外を眺めていた。
この世に生まれてから18年間で初めての,雲の上だった。

航空機は,テレビの画面でしか,Googleマップ上でしか見たことのなかった未知の土地へと,高度は上げながら,緯度を下げていった。


〈02〉へ続く。

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