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チェリストサバイバル日記2

森の横には川があって、そこにはほとんど水が流れていなかった。その川にそって、今は水瓶を頭に載せた女性が、歩いている。紫、赤、黄色などの色が混じった彼女のサリーは、本来色鮮やかはずであるが、長年砂埃で洗われてきたせいだろう、くすんでみえた。家では、3歳くらいの幼児だろうか、服は身に纏っていない彼、あるいは彼女は、家の隅っこで、何かの遊びに、夢中になっているようだ。周りに大人は見当たらない。皆それぞれの仕事へ、出掛けているのだろうか。
田んぼでは、稲が青々と伸びているが、今はすることはなく、誰もそこにはいなかった。その脇の、大きな樹の下で、白い装束を着た、年齢はわからないが、男性が、何ごとかを語っており、その周りには、村の人々であろう、人だかりが出来ていた。

街では狭い通りを、色とりどりの車、4輪、あるいは3輪の車が土埃をたてながら走っていて、人々はその間に見え隠れするのだった。少し開けた、広場ではないが、その角の辺りには、車が数台停めてあり、舗装されていない土の地面には、車の作った轍が、幾十にも重なっているのだった。

玄関が2階にあるその家に入って、階段を降りて右側の小さな部屋には、日当たりの悪いその部屋には、アップライトピアノが置いてあるのだが、長い間、誰にも弾かれていない。今は家にグランドピアノあって、それはなぜか赤いのであるが、光沢のない暗めの赤で、嫌な感じはしなかった。その家の息子は、ピアノを弾かないこともないのだが、それはごく稀で、家にいる時は、階段のしたの、短い廊下の窪みに設置されたコンピューターの前で、もっぱら時間を過ごすのであった。
家の前には、フェンスで区切られた葡萄畑があるのだが、棚は鉄骨で、錆びているし、土は黒く剥き出しで、葡萄のシーズンになっても、それほど緑でいっぱいになるということもなかった。そしてその隣は車道で、車はひっきりなしであったが、それほど存在感はなかった。

その、大学でチェロを教えている先生の家のドアは、2重になっていて、それはこのあたりでは、普通のことのようであった。玄関を入って右側が、キッチン兼、食卓になっており、その部屋の隣、入り口は他にもあるが、そこは広い客間で、その隣の小さな部屋を経て、書斎、そこもかなり広いのだが、があった。2階へ続く階段は、玄関のホールの左手にあった。階段を登ると、左側に部屋が一つ、正面にも部屋が一つあって、日本からの生徒が一人、そこに滞在していた。廊下の角を曲がるとって、その奥にも部屋がいくつかあり、家の人々の寝室であったりした。その部屋には、ダストシュートのような穴がついており、その穴に衣類を放り込むと、地下の洗濯場に直送されるのだった。地下には他に、テレビの置いてある部屋があったが、しかしあまり使われていないようであった。その日本からの生徒がこの家に来た時には、雪が少し積もっていたが、今はすっかりなくなっていた。

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